苦くも柔い恋
「悪かったなスマートに誘えなくて」
「いや…悪いとは言ってないけど」
慣れていたらそれはそれで複雑なので何とも言えない。
「けど突然言われても思いつかなくて…そもそも、この辺出歩くと生徒と顔合わせるからあんまり気乗りしないんだよね」
それこそ千晃が隣に居たら絶対に揶揄われる。
一応教師としての威厳は守りたい。
そう言うと、千晃はさも当然のように言い放つ。
「なら車出せばいいだろ」
その為の移動手段だと続けた。
「別に目的なんて無くてもいい。車走らせるだけでも良いし、適当にブラブラするのだって立派なデートになるんじゃねえの」
「…なるほど…」
「じゃあとりあえず今日は隣県まで車走らせて飯食って帰る、それでいいな」
こちらの返事も待たずに千晃は立ち上がる。
「片付けしとくから準備して来い」
強引さは否めないけれど、家に居るのもそれはそれで落ち着かないので彼の案に乗る事にした。
簡単に着替えとメイクを施して支度を済ませ、千晃に声をかける。
黒のポロシャツにゆとりのある白パンという、特別お洒落な装いでもないのに袖から伸びる筋の通った逞しい腕やどこまでも伸びる脚の長さがハイセンスに見せているから不思議だ。
うっかりかっこいいだなんて思ってしまった思考を振り払い、行くぞと背を向ける千晃に続いた。