苦くも柔い恋
「おい、スルーしてんなよ」
どこか拗ねたような顔をする千晃に、まさか後ろから来るとは思っておらず、驚きつつも和奏は会えたことに安堵感を覚えた。
「ごめんね。お迎えありがとう」
1週間お疲れ様と笑うと、千晃も機嫌を直してくれたようだった。
「おう、長旅ご苦労さん」
「それはいつもの千晃でしょ」
私は今日初めてだから。
そう言うと千晃は手に持っていたボストンバッグを取りあげた。
「久しぶりの都会はどうだよ」
「人が多いね」
「そりゃそうだろ」
当たり前のことをと笑われたけど、それ以上の感想がないのだから仕方ない。
「けど、満員電車はもうやだな。人との距離が近過ぎて息苦しい」
「誰も好き好んで乗りはしないだろ」
「でも千晃は毎日乗るんじゃないの」
「フレックス使ってできるだけ避けるようにしてる。現場何件も回る日はリモートで済ませたり」
「リモートか…未知の世界だ」
「和奏の仕事じゃ無理だろうな」