苦くも柔い恋
話しているうちに見えてきた千晃の家らしきマンションに入れば、そのまま部屋へと案内された。
部屋から漂ってくる千晃の家の香りに若干の緊張を覚えていると、肩を抱かれて中へ促される。
「すぐに出られるが、少し休んでから行くか?」
持ってきた荷物を下ろしながら問われ、和奏は大丈夫と首を振った。
「疲れてないから平気。それに時間が勿体無いし」
今日はこの後水族館に行く予定にしていた。
純粋に水族館デートというものに憧れがあったし、少し前に新しくできたと聞くその水族館では珍しいシャチのショーが見られるとテレビの特集で見てからずっと気になっていたのだ。
了解と言った千晃はポーチ型のバッグを斜めがけすると玄関に向かって歩き出す。
ここから少し距離があるので車を出してもらう予定で、和奏も小さなバッグだけ持って後を追いかけた。
駐車場に停めてあった車に乗り、ナビを操作する千晃に話しかける。
「どれくらいで着きそうかな」
「あー…ナビだと1時間くらい」
「良かった。ショーには間に合いそう」
「そんなに楽しみかよ」
「うん。千晃と一緒だから」
素直に言えば、千晃は穏やかな笑みで頭を撫でた。