苦くも柔い恋



唯一の心残りといえば両親への罪悪感だ。

成績優秀者に与えられる特権として支払い義務が免除される奨学金制度を携えて卒業はしたが、我儘を聞いてもらい遠い土地の、しかも私立の大学へ通わせてもらっておきながら何年も帰省をしていない引け目がある。

故に和奏は生活費はできるだけ稼ぐため、日々バイトに勤しんだ。

勿論学業に支障のない程度に、だ。


元より人に教える事が好きだった和奏には塾の講師というバイトは性に合っており、卒業と共にそこに就職までしたのだからよほどだ。

また大学の友人も気が合う者が多く今でも時折交流は続けていて、すっかり新しい土地にも慣れこれまでに無いほどのびのびとした生活を送れていた。


地方で確かに娯楽は少ないかもしれないが、今はネット社会で欲しいものはスマホ1つで手に入る為何も困ることも無ければ、都会のようなごみごみとした喧騒もなくいつも穏やかだ。

だからもう二度と、あの場所に戻る事はないだろうと心の内で思っていた。





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