苦くも柔い恋
「橋本、お疲れ様」
「お疲れ様でした。こちら報告書です」
授業があるのは月曜から土曜の夕方から夜にかけてで、週休は二日。
本日は土曜日だが和奏は出勤していた。
報告書を受け取った上司である講師、香坂は柔らかく微笑んだ。
「ん…クラス平均上がってきたな。今のクラスになって数ヶ月で大したもんだ」
「ありがとうございます」
「なんだか橋本の顔も見慣れたな、若いのにベテラン感がすげえ。ここ何年目だっけ」
「大学の頃からなので6年くらいですかね」
「いつも残ってるイメージあるけどちゃんと休めてるか?」
「大丈夫ですよ、プライベートもそこそこ充実してるので」
それを聞くと香坂はふむ、と少しだけ考える素振りを見せた。
「なら申し訳ないんだが、橋本の授業を個別で受けたいって生徒からの希望がまた出てな。受験生だから出来るだけ応じてやりたいんだが了承していいか?」
「構いませんよ。受け持ってた子が卒業したのでその分枠も空いてますし」
「悪いな。人員補充は上に打診しとくから」
「助かります」
有名な進学塾ともあるためここに通う生徒は皆意欲的で教え甲斐があり苦痛にも感じない。
秋頃に友人と旅行の計画を立てているのでそこだけは休みを死守したいが、既に有休は申請済みだしまあおそらくは大丈夫だろう。