苦くも柔い恋
こちらから話を切り出すのも癪だったので黙っていると、千晃が重い口を開いた。
「なんで黙って居なくなった?」
ある程度予想のしていた質問に、家に上がるまでに用意していた答えを返す。
「家族でも何でもない人に言う必要あった?」
「…卒業式にも居なかったろ」
「うん。高校に良い思い出も無いしね」
共に過ごす友人が居なかったわけでは無いが、偶々お互い他に話す人間が居なかったから一緒に居た程度の、所詮は利害が一致しただけの関係だったから別にどうでも良かった。
だからこれは最大限の嫌味だ。
ペットボトルの蓋を弄りながらそう吐き捨てれば、その意図を汲み取ったか定かではないが、またも的確に千晃は和奏の地雷を踏み抜いてきた。
「家族っていうなら、美琴にも教えなかったのは何でだ」
「……はっ、また"美琴"か…」
もううんざりだ。
頼みもしないのに勝手にこんな所まで来ておいてまでその名前を出すこの男にも、和奏の気持ちを気付いておきながら、それを意にも解さない姉にも。