苦くも柔い恋
どうせ千晃は知らないのだろう、美琴は優しい"フリ"をするのがとても巧い女だ。
外面がよく聖母のように振る舞いながら、その実内心では和奏を含む他人を見下している。
ずっと気づいていたけど知らないフリをしていた。
決別の決定打となったあの日、千晃に抱きつきながら勝ち誇ったようにこちらに視線を向けてきた笑顔を見るまでは。
「そんなに美琴が気になるならさっさと戻りなよ。どこに就職したかは知らないけど、どうせ今でも会ってるんでしょ」
「和奏…お前一体どうしたんだよ」
かつての態度とまるで違う様子の和奏に動揺の隠せない千晃がそう言った。
「はあ…分からないならはっきり言ってあげる。迷惑だから帰ってって言ってるの」
強く睨めば、同じように強い眼差しの視線が返される。
「それで納得できるかよ。理由も聞かず帰れるか」
「理由ならもう言ったよ、美琴とも君とももう会いたくないんだって」
「だからその理由が知りてえんだよ」
「本当に分からないの?」
「なにがだ」
あまりの無神経さに頭痛がしてきた。
理由なんて分かりきっているじゃないか。
そんな事をわざわざ聞く為にどうやって調べたか分からないが、こんな所まで押しかけたとでもいうのか。
「俺達、付き合ってんだろ」