苦くも柔い恋
そこでは食事を終えたらしい千晃が自身の布団を敷き寝る準備を整えていた。
「お風呂空いたよ」
「…おう」
横顔に声をかけるも目も合わさずそう返事をし、離婚間際の冷え切った夫婦のようだなと頭の片隅でバカな事を思いながら冷蔵庫の麦茶をコップに注いで飲み干した。
そのまま歩いてベッドの淵に腰をかけ、ドライヤーのコンセントを挿しているとふと視線を感じて見上げる。
「…なに?」
エスパーじゃないんだから言いたい事があるなら言って欲しい、そうは思うが和奏に対しては言葉が幾つも足らないこの男に言ったところで無駄だろう。
結局頭から足先までじっと見つめて「別に」と言いながら風呂場へ消えていった。
——変な人
背中まで伸びる髪をサッと乾かし、その辺にドライヤーを放って布団を頭まで被った。
なんだかもう、考えるの面倒くさくなってきた。
どうして私が千晃のために頭を悩ませなければならないのか、そう思うと途端に馬鹿馬鹿しくなり和奏は全ての思考を放棄して目を閉じた。
程よい疲労は直ぐに眠気を呼び寄せ、そのまま抗う事なく眠りについた。