シュガーくんの秘密のボディーガードちゃん
第1章 ボディーガード任命!?

第1話** 私が武道を辞めた理由


「あのっ、入学した時から好きなの。よかったら私と付き合ってください……!!」

 ドキドキと高鳴る鼓動をなんとかおさえ、私は目の前に立つ男の子からの返事を待つ。
 
 小学校に入学してからずっと好きだった同じクラスの男の子。いわゆる私の初恋だった。

 クラスの男子の中でも1番仲が良いし、彼も私が女子の中で1番仲が良い。だから、きっと両思いだと心のどこかで信じていた。

 けど…。

「……え〜っと、ゴメン。詩桜(しお)のことは友達としては好きだけど、正直、女子としてはちょっと……。詩桜、この前の大会で全国制覇したんだろ?……なんというか、そもそも俺より腕っぷしが強い子はないかな〜なんて。やっぱり女の子は守りたくなるような子の方が可愛いっていうか……」

 言いにくそうに口ごもり、苦笑いを浮かべる男の子は「でも、詩桜の気持ちは嬉しかったぜ。じゃ、そういうことで」と言い残し、サッサと立ち去ってしまう。

 あとに残された私は、ぽかんとした表情でその場に立ち尽くしていた。

 ……っ!!

 まるで思い切り頭を鈍器で殴られたような……。
 いや、父との柔道の稽古中に力加減を間違われて、しこたま背中を打った時と同じくらいの衝撃が身体中にはしる。

「なにそれ……。自分より強いから女の子には見えないってこと?それだけの理由で私、フラれたの?」

 仲が良いと思ってたのに、まさか全く彼に女子として認識されていないなんて……。

 私、もしかして、このままじゃ、一生普通の恋愛できないかもしれないの?……そんなの絶対嫌!!

 この日私は決意した。

 世間一般で言う、可愛いらしい女の子になろうと。

 こんな惨めな思いをもう二度としないためにも――。


 **


 ジリリ、ジリリリ――。

 けたたましい目覚ましの音で目が覚めた私は、ムクリとベッドから起き上がり小さくため息をつく。

「ハァ……。最悪。久しぶりに昔の夢見ちゃったなぁ」

 3年ほど前、小学6年生だった頃の苦い記憶。

 当時私をフッたヤツのことは記憶から抹消したけれど、言われた言葉というものは、なかなか消えてはくれない。未だにこうしてふいに、思い出すことがあった。

 せっかく今日から中学3年生になるし、ドキドキのクラス替えなのになんだか幸先悪いなぁ。

 テンション低く、クローゼットの中にかかっている着慣れた制服を引っ張り出し、私が着替えを済ませた時だった。

「詩桜!今日こそは一緒に朝の稽古に行こう!」

 バンッと勢いよく部屋の扉を開け、大きな声で私に声をかけたのは、父親である遠城寺 作馬(えんじょうじさくま)だ。

 180センチ以上ある身長と鍛え抜かれた筋肉は、もうすぐ50歳になるとは思えないくらい洗練されている。

 さすが昔、空手で全国制覇し、現役の黒帯選手なだけはあるなと娘ながらに尊敬はしていた。

 私の名前は、遠城寺 詩桜(えんじょうじしお)

 今日から中学3年生になる14歳の"ごく普通"の女の子だ。

 好きなものは、甘いお菓子に、可愛い雑貨。
 好きな色は、パステルピンク。
 もちろん今、流行りのドラマにアイドル、動画のチェックも欠かさない。
 最近はメイクにも興味が出てきて、日々勉強中だ。

 そんな普通の女子中学生の私が嫌い……、いや、苦手なものは武道全般だ。
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