殺したいほど憎いのに、好きになりそう

ダイヤルアップ


 年が明けて間もない1月4日。鬼塚と一緒にスペースワールドへ行くことになった。
 当日の朝、キッチンの冷蔵庫に貼ってあるJRの時刻表を眺めていると、お母さんに声をかけられた。
 どうやら福岡市から遠く離れた北九州市まで向かうので、心配しているらしい。

「藍、あんた駅を間違えて降りたりしないでよね……」
「もうお母さん、大丈夫だって子供じゃあるまいし」
「あんたはまだ子どもでしょ!?」

 ヤベッ、この世界じゃ13歳だったことを忘れていた。

「ねぇ、お父さんも心配じゃないんですか?」

 お母さんがお父さんに話を振るが、本人の耳には入ってないようだ。
 冬のボーナスで買ったばかりの”ウインドウス95”搭載のパソコンを触っているから。
 ぶ厚い説明書を読みながら、大きなブラウン管のモニターを眺めている。
 どうやらインターネットの接続方法に悩んでいるようだ。

「これでユーザ名とパスワードを入力したらいいんだな」

 横からチラッとモニターの画面を確認したが、懐かしい”ダイヤルアップ接続”だ。
 電話のプッシュ音が鳴ったかと思うと「ギーガービープー」という雑音が流れてくる。どれも耳障りな音ばかりで耳を塞ぎたくなる。
 そしてようやくインターネットが繋がったかと思ったら、パソコンのスピーカーから若い女性の声が聞こえてた。

『いや、マジでこの前は超ビビったていうか! 生理がこないからさ、彼氏に相談したら急に黙り込んでムカついてさ……』

 あれ? この声、お姉ちゃんじゃないか?
 そうか、ダイヤルアップ接続だから混戦することがあって、電話を使っているとたまにパソコンから聞こえてくるんだった……。

「なんだ? この声は……インターネットに繋がったのか?」

 ヤバい。お父さんに聞かれてはいけない内容だから、早いことお姉ちゃんの電話を切らせないと。
 俺は急いで二階へ駆け上がると、お姉ちゃんの部屋の扉を開けて自宅電話の子機を取り上げ、電話を無理やり切った。
 当然お姉ちゃんは顔を真っ赤にさせて、怒っていたが……。

「リビングでお父さんがパソコン使ってるから、さっきの話。全部聞こえてたよ?」

 と俺が説明すると、お姉ちゃんは態度を一変させて、黙り込んでしまう。
 まあ妊娠はしてないようなので、放っておこう。

  ※

 とりあえず、家を出てJRの線路に沿って歩き始める。
 三が日が終わったとはいえ、まだ世の中は正月気分な人が多いようだ。
 最寄りの駅に向かって歩いているが、誰も歩道を歩いていない。たまに車が数台走るぐらい。

「うう……やっぱり、寒いな」

 真冬の遊園地に行くからと、いつもより厚着してきたつもりだったが全然寒い。
 ニットのロングワンピースに、アウターとしてスタジャンを羽織っている。
 足元は動きやすいように、キャンパスシューズにした。

 鬼塚とは、”筑前真島(ちくぜんまじま)”の駅舎で待ち合わせしている。
 今回の目的はプリクラ撮影だから、彼が得意な弁当は作らなくていいと伝えておいた。
 お姉ちゃんに「イタリアンレストランで7000円も使わせたんだから、今度は藍がおごりなさい」と注意されたから。

 駅舎に近づくにつれて、独特の臭いが漂ってくる。
 自転車置き場の近くにある公衆トイレから、鼻をつまみたくなるほどの悪臭が流れているからだ。
 この時代はトイレを掃除する人がほとんどおらず、無法地帯だった。
 それに終電を過ぎても、この公衆トイレはいつでも使えたから余計に臭い。

 ようやく駅舎にたどり着くと、褐色肌の少年がこちらに向かって手を振っている。

「おーい、水巻! こっちだ!」

 鬼塚も遊園地用にある程度、対策しているようだ。
 下からデニムのショートパンツに、タートルネックのセーターと……ってウソだろ!?

「あれ……鬼塚もそのスタジャン持ってたの?」
「え? 水巻も持ってたんだ。これ有名なバスケ選手が使ってるスタジャンだぜ? なんで女のお前が持ってるの?」
「し、知らない……」
 
 クソがっ! なんでこいつとペアルックしないとならんのだ!
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