妖狐少女と御曹司~最強女子は御曹司くんのニセ彼女!?~

「それにしても、今日はちっともお客さんいないね」

 私はキョロキョロと店内を見回した。

 夕ご飯にはまだ少し早い時間。

 だけど、いつもならこの時間には何人かお客さんがいるはずなのに、今日は全然お客さんがいない。

 いったいどうしてだろう。

「ああ、それはこのせいじゃないか?」

 お父さんが一枚のチラシを奥から持ってくる。

 どうやら近所に有名な定食屋のチェーン店がオープンしたみたい。

「そうなんだ」

 私はぎゅっとチラシを握りしめた。

 悔しいな。

 このお店は見た目は地味だけど、出している料理はみんなおいしいのに。

「ま、最初はもの珍しさもあって客も取られるだろうけど、そのうちお客さんも戻って来るさ」

 アハハとお父さんが笑う。

「そうよね。パパのおいなりさんは世界一だもの」

 お母さんもお父さんに抱き着いて笑う。

「うん」

 私も不安になりながらもうなずいた。

 だって、お父さんのおいなりさんが美味しいのは確かだもん。

 だからお客さんだってそのうち戻ってくるはず。

 ……と、その時はそう考えていた。
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