妖狐少女と御曹司~最強女子は御曹司くんのニセ彼女!?~
「忘れる?」
竜くんの言葉に、頭の中に凪季の顔が浮かんでは消える。
凪季のすました綺麗な顔、少し怒ったような顔、照れた顔、愛おしそうに微笑む顔。
「忘れるなんてできないよ! だって私は……」
私は凪季が好きなんだからっ……!
涙目になる私に、竜くんはフンと鼻を鳴らした。
「ふん、せいぜい学校中を探し回るんだな」
そう言って去って行く竜くん。
「待って……!」
私は慌てて後を追いかけようとした。
だけど気つくと竜くんの姿はどこにもない。
いったいどこへ……。
私は必死で考える。
そうだ。『せいぜい学校中を探し回るんだな』って言ってたってことは、学校の中にいるよね。
それに水場だから有利だとも言ってた。
学校で水場と言えば……。
「もしかして」
私は大急ぎで学校のプールへと向かった。
季節は秋。プールの入り口は当たり前だけど閉まっていて鍵がかかっている。
私はじっとプールの方向を見つめた。
冷たい秋の風が木の葉を揺らす。
ツンとかすかに漂ってくる錆びた鉄と塩素の香り。
そこに交じって、ほんの少しだけど嫌な気配がした。
「これは……」
――妖怪の気配だ。