俺の彼女は高校教師

第2章 ドキドキラブメール?

 駅前で空を見上げながらぼんやりしていると目の前に車が止まった。 「弘明君じゃない。 どうしたの?」
「電車が遅れてしまって来ないんですよ。」 声の主を見ずに俺は答えた。
 「送ろうか?」 そう言われて初めて俺は声の主を見た。
なななななんとまた美和だった。 今日は部活も休みの日。
昔は休みなんて無くて「毎日トレーニングするから試合でも勝てるんだぞ。」って言い張る監督が多かったよな。
今はちっとは人間らしくなったのかなあ? 水も飲めるようになったしね。
 「いいんですか?」 「いいわよ。 電車が来るまで待ってるのも大変でしょうから。」
それでまた俺はフェアレディーの助手席に乗ることにした。 相変わらずかっこいい車だぜ。
 「80年代のドラマで『西部警察』っていうのが有ったのよ。 それにフェアレディーが出てたのよね。 あんまりかっこいいから買っちゃったの。」
「赤なんて相当に高いんじゃないの?」 「高いからローンにしてもらった。」
 『西部警察』 それは現実的には有り得ない犯人グループと刑事グループの大抗争ドラマ。 アナログな犯人とデジタルな大門軍団の超ド派手なバトル劇。
中で登場するスーパーマシーンはマシーンxに始まってrs軍団まで、、、。
その中でスーパーzは断トツの大人気だった。 真っ赤なフェアレディーがアフターバーナーで爆走し催涙弾を打ち込む。
rs軍団もすごかったよな。 突撃し情報を収集し分析して包囲網を作るなんて、、、。
 あの車を間近に見た人たちはどう思っただろう?
 美和は駅前から脇道に入ってエンジンを吹かした。 (相変わらずやるなあ。)
時刻は5時を過ぎたところ。 ヘアピンを越えて坂を爆走。
「こんなに飛ばしてもいいの?」 「ここは60キロ制限だから。」
「そっか。」 それにしても連チャンで美和に送ってもらえるなんてこんな幸せは無いなあ。
 その頃、香澄は本屋で小説に没頭中。 誰かの小説集らしい。
「『さよならの春』なんてなんか泣けちゃうじゃない。 真奈美ちゃん 癌で死んじゃうのね?」 パラパラとページを捲りながら挿絵にウルウルしてしまう。
香澄はその本を持ってレジに立った。 「電車の中で読もうかな。」
 駅に戻ってくると弘明の姿が無い。 (急行にでも乗って行っちゃったかな。)
そう思いながらやっと来た普通電車に乗るのである。
 俺はというと美和とのデートの真っ最中。 なんてことは無くて今日もドキドキしまくりなんだ。
拾ってもらえるなんて予想外だったからさあ。
 前からパトカーが猛スピードで走ってきた。 「やべえんじゃないの?」
「大丈夫。 捉まるようなことはしてないから。」 通り過ぎたパトカーを見ているとお巡りさんが二人コンビニへ入っていった。
「あの二人は何をしてるんだろう?」 「たぶん、巡回中二トイレに行きたくなったのね。」
「トイレ? そっか、お巡りも人間だからなあ。」 それを聞いて美和がクスッと笑った。
 5時半過ぎには俺も家に着いちまって美和の車を見送る。 何か知らねえが胸にポカっと穴が開いたような気がするなあ。
玄関先でぼんやりしているといきなりドアが開いた。 「おやおや弘明、帰ったのか?」
「う、うん。」 「さては美和ちゃんに送らせたな?」
「送らせたんじゃなくて送ってくれたんだよ。」 「まあ何でもいい。 入りなさいよ。 そんなとこに立ってないで。」
 中に入るとカレーの匂いがする。 今晩はカレーだな。
食べながら思い出すのはハンドルを握っている美和の横顔。 父ちゃんが返ってきたのにも全く気付かなかった。
(それにしてもかっけーよなあ。 フェアレディーだぜ。 dtrもそりゃあかっけーとは思うけどフェアレディーのほうが数段上手だよなあ。)
 「おいおい、弘明よ。 風呂だって呼んでるのが聞こえなかったか?」 「ああごめんごめん。 行くから。」
「あいつ、美和ちゃんにやられてるなあ。」 「パパもそう思う?」
「何を言っても聞こえてないんだぜ。」 「青春してるのよ。」
「俺も返りたいなあ。」 「じゃあさあ、私と別れることになるけどいいの?」
「いかんいかん。 それはいかん。」 「そうでしょう? だったら、、、。」
「すまんすまん。」 今夜もどっか浮いている親父たちの物語を聞きながら風呂に入るのだ。
相変わらず何とも言えん家族だよなあ。 姉ちゃんは燕みたいにあっちこっち飛び回ってるし母ちゃんはあの通りだし、、、。
これで美和が仲間入りしたりしたらどうなるんだよ? 俺は毎晩公開処刑されるぜ。
 「アグ、、、。」 また溺れる所だった。 危ない危ない。
真夜中の我が家は幽霊屋敷にでもなったのかって思うくらいにしーーーーーーんと静まり返ってる。 怖い家だなあ。
そんなに古い家じゃないんだけど、ミシミシって音が聞こえるんだ。 ばあさんでも居るのか?
 1階に下りて冷やしておいたレモンスカッシュを飲んで、、、。 「えーーーーーーーー?」
振り向いた鏡にばあさんが笑ってた。 真夜中の大声に母ちゃんが飛んできた。
「何やってんだよ?」 「いやいや、今 鏡にばあさんが映ったんだ。」
「そんなことくらい前からしょっちゅうだよ。」 「何だ、、、そっか。」
「美和ちゃんに溺れてるからそうなるの。 ちっとは頭を冷やしなさい。」
「分かった。 分かったよ。」 俺は納得できない顔で部屋に戻った。

 さてさて翌日は木曜日。 いつも通りに駅へ来た。
「おっはよう! 昨日は何処に行ってたの?」 「ギク、、、。」
「あらあら、顔色が変わったなあ。 ということは?」 「何でもねえよ。 何でもねえったら。」
「なんか剥きになってるねえ。 怪しいなあ弘明君。」 「うっせえなあ。 少しは黙ってて。」
「香澄、 あんなの相手しないでいいから行こうよ。」 「そうね。 まったねえ 弘明君。」
(朝からこれかよ。 今日は一日うるさそうだなあ。) 「私ね、弘明君の彼女なの。」
香澄はそう言って憚らないやつだ。 律子もそれを吹聴して歩いてる。
うざいやつらなんだけど小学生の頃から同級だったんだよなあ あの二人。 だから思い切って何も言えなくなるんだ。
 そこへ流星のごとくに美和が現れた。 関東大震災レベルの大地震が起きたわけね。
この先はどうなっていくんだろう?
 そのまま昼休みが来た。 今日も俺は弁当を掻き込むと図書館へまっしぐら、、、。
奥のテーブルに落ち着いた俺は読みかけの本を引っ張り出してきて読んでおります。 司書室は静かだなあ。
水谷さんは休みだとか言ってたっけ。 じゃあ今日は静かなままだな。
と思ったら、、、。 聞き慣れた話し声が入ってきた。
「だからさあ、あの本を探して読もうと思って。」 (ゲ、香澄じゃねえか。)
「あらあら、弘明君も来てたの?」 「そうだよ。 掃除もしなきゃなんだし、、、、。」
「へえ、弘明君も本は読むのねえ。」 「知らなかったのか?」
「前から知ってたけど何を読んでるかまでは知らないからさあ。」 「何だと思ってた?」
「そうねえ、ヌード雑誌。」 その答えに律子までひっくり返った。
「みんなして何よ?」 「やっぱりお嬢様だわ こいつ。」
「ごめんなさいねえ。 お嬢様で。」 「ところで香澄は何をしに来たのさ?」
「弘明君が悪いことをしないように監視しに来たのよ。」 「その顔でか?」
「ひどいなあ。 その顔でもこの顔でもいいでしょう?」 膨れっ面で香澄は本棚に向かった。
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