俺の彼女は高校教師
 「元気無いなあ。 どうしたのよ?」 姉ちゃんが不意に聞いてきた。
「いや、何でも、、、。」 「何か有るでしょう? 悩んでる時はあんたいつもそうだもんね。」
「ねえってば。」 「ほらほら怒り出した。 やっぱり何か有るんだ。」
「姉ちゃんには関係無いよ。」 「じゃあ香澄ちゃんにでも聞いちゃおうかな。」
「それだけはやめてくれ。」 「やっぱり香澄ちゃんなのね? 何か有ったの?」
 姉ちゃんが追及してくる。 俺はそれを無視して飯を掻き込んだ。
(気付かれたな。 こりゃあやばいぞ。) そう思うと余計に逃げ出したくなるんだ。
でも姉ちゃんは俺を捕まえたまま。 「打ち明けるまで隣に居るからね。」
そう笑いながらビールを美味しそうに飲んでいる。 その横顔がまたまた堪らない。
どっかの女優かって思うくらいに、、、。

 しばらくして父さんが口を開いた。 「弘明、香澄ちゃんと何か有ったのか?」
「べつに、、、。」 「お父さん 私が尋問するからいいわよ。」
「そうか。 じゃあ頼んだぞ。」 「弘明くーーーーん、何が有ったのかなあ?」
 姉ちゃんが保母さんみたいな口調で攻めてきた。 「何にもねえってば。」
「香澄ちゃんはあんたが好きなのよね? だから何か有ったんでしょう?」 「無いってば。」
 そしたら姉ちゃんが耳元に口を寄せてきた。 「あんたは美和ちゃんが好きなんでしょう? 黙っとくから喋りなさいよ。」
「ギク、、、。」 (何でこいつ そこまで分かってるんだ?)
 「そっか。 あんたが美和ちゃんにぞっこんしたから香澄ちゃんが妬いてるのね。 可愛いじゃない。 香澄ちゃんを可愛がってあげなさい。」 「でも、、、。」
「今まで通りにやれば仲良く出来るわよ。 逃げないことね。」 それだけ言って姉ちゃんは部屋に戻っていった。
 「今まで通りか、、、。」 俺も部屋に戻ってスマホを開いてみた。
「メールだ。」

 『最中ありがとう。 美味しかったよ。 また明日も大騒ぎしようね。 か、す、み。』

 「食い物に釣られてやんの。 やっぱり馬鹿なやつ。」 それを姉ちゃんはじっと見ていた。
 翌日、駅へ降りると香澄が飛んできた。 「おっはよう!」
「何だよ 昨日はあれだけ派手に泣いといて。」 「昨日は昨日。 今日は今日。 全力投球よ。」
「お前がか?」 「弘明君ももーーーーーっちろん全力投球するのよ。」
そう言って香澄が走り始めた。 「ああ、待て! こら!」
「やっぱりあの二人は切れないわねえ。」 「あれこそ腐れ縁じゃないの?」
「さあねえ。 腐れてるかどうかは二人でも分からないでしょうよ。」 「それもそうだ。」
こうして今日もドタバタな一日が始まったのだ。
 教室に入っても香澄はいつものように挑発してくる。 「私とキスしたいでしょう?」
「ド直球で聞くやつが有るか。 馬鹿。」 「うわ、また私を馬鹿にした。」
「いいぞーー、弘明ーーーー。」 「もっとやれーーー 香澄ーーーー。」
(何だいこいつら?) 「まあまあ賑やかですなあ。 ホームルームを始めるぞ。」
「先生、ホームルームってどういう意味?」 「未だに知らねえのか?」
「だって分かんないもん。」 「じゃあさやかにでも教えてもらえよ。」
 久保山先生は出席簿を見ながら皆を見回している。 「今日も元気いいなあ。 羽目だけは外すんじゃねえぞ。」
「はーーーい。」 「佐藤、お前が一番危ないんだよ。」
「へ、言われてやんの。」 「山下、お前も同類だろうが。」
 ホームルームが終わるとみんなはそれぞれにコソコソと話し始めたようだ。 どうやら俺のことらしい。
(飽きねえ連中だなあ。) 「ねえねえ弘明君 もちろん一緒に行くわよね?」
「何処に?」 「1時間目さあ時間変更で音楽なんだけど、、、。」
「ギャーーーーー、遅れるじゃねえかよ。 急がなきゃーーーー!」 「ああ、待ってよーーーー! 待ってったらーーーー!」
 「やっぱりさあ、あの二人はくっ付いてるほうがいいんだね。」 「私もそう思うわ。」
「離れると後が大変だからねえ。」 「そうそう。」
律子たちも後から音楽室へやってきた。 「さてさてやりますかねえ。」
(いつもの通りだなあ。) 「今日はソルフェージュをやります。」
「え? ソルフェージュ?」 「そうよ。 あなたたちも3年生なんだから少しは出来るようになってるでしょう?」
 そうして先生はピアノを弾くのでありますが、、、。 「ぜんぜん分かってなかったのねえ。 何だったのよ?」
「そんなことを言われても、、、。」 「まあ音大に行く人が居ないからいいけどさあ、これじゃあ卒業できないわねえ。」
律子も香澄も音符というやつにはとことん興味も関心も無いんだって。 俺だってそうだけど、、、。
 2時間目はというと緊張しまくりの数学でありまーーーーーす。 でもなぜか俺は無視されてます。 ショボン。
最初から最後まで美和は顔さえ見ないままに授業を終わらせてしまいました。 ざんねーーーん。
 授業が終わったと思ったら香澄がいきなりくっ付いてきた。 「よせっての。 馬鹿。」
「また私を馬鹿にしたな。 泣いてやるんだからーーーー。」
「目が笑ってますけど、、、。」 「あのねえ、痛い所を突いてこないの。 恥ずかしいじゃない。」
「自分でやっといてか?」 「もうもうもう、ほんとに意地悪なんだから。」
「お前もな。」 「何でよーーーーーー? 私 弘明君ほど意地悪じゃないもん。」
 「やっぱり香澄と弘明君はお似合いよ。」 「さやかちゃん 分かってるーーーー。」
「きもいっての。」 「えーーーー? こんな女の子を馬鹿にするなんてひどーーーーい。」
 休み時間ともなればこうなんだよなあ。 いつものことだ。
「お前ら飽きないなあ。」 「飽きて堪るかってんですわ。」
「何か変だぞ 香澄。」 「変でもいいの。 私は変なんだから。」
この調子で一日やられそうだなあ。 まいったぜ。

 3時間目は社会科。 歴史なんて珍紛漢紛。
癖の有るあの先生の髪形を見ながらみんなでスケッチをしてまーーす。 悪い連中だな。
 それでやっと昼休みになりました。 と思ったら、、、。
「弘明君さあ、今日も図書館に行くんでしょう?」 「それがどうした?」
「私も付き合っていい?」 「何でお前なんだよ?」
「いいじゃない。 たまには一緒に本を読みたいの。」 「漫画か?」
「ひどいなあ。 そこまでお子様じゃないから。」 「顔はどう見てもお子様ですけど。」
「頭に来るーーーー。 何処まで馬鹿にしたらいいのよ?」 「全部。」
「あのねえ、、、。」 「香澄 思い切って抱き着いちゃいな。 「あなたしか居ないの。」って。」
「さやかちゃん 大胆だなあ。」 「香澄の胸なら大丈夫よ。」
「ああ、胸でアタックか。 見てみたいなあ。」 「あのねえ、、、、。」
 いつも通りの教室でいつも通りの騒ぎです。 飽きないもんだなあ。
太一と香澄がやり合っている間に俺は図書館へ、、、。 のんびりと本を読んでいたら、、、。
「まったくもう、知らない間に行っちゃうんだから。」 そう言って香澄が駆け込んできた。
「ほんとに来やがった。」 「いいじゃない。 好きなんだから。」
「あっそう。」 「冷たいなあ。 もっと喜んでよ。」
「小学生の頃からずーーーーーーーーっとこの調子なんだぜ。 いい加減飽きるわ。」 「いいの。 弘明君の隣に居られたら、、、。」
「何ドラマみたいなことを言ってるんだ?」 「見過ぎかなあ?」
「まったくもって受けるーーーーーーーでございます。」 「古過ぎよ。 それ。」
「すいませんなあ。 それ以来見てないもんで。」 「さて何を読もうかなあ。」
香澄は本を探しております。 その後ろ姿が、、、。
(こう見るとあいつも可愛いもんだなあ。) 思わず見惚れてしまった輪。




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