マリアンヌに私のすべてをあげる

私だけ初めましてのうつむきマリアンヌ


ゴージャスな朝食を済ませた私は、ゴージャスな屋敷の廊下をロマンスグレーセバスチャンに先導されトボトボと歩いていた。

そしてこれまたゴージャスな、さっき寝ていた部屋とは別の執務室に連れて来られる。
今日の午後までに片付けておかないといけない書類仕事があるらしい……

ーーそんな急に訳の分からん世界の仕事なんて出来るはずねーーよッ!!

と心の中で抗議してみたものの、
郷に入っては郷に従えってことだなっとすぐに諦めた。
バカな兄貴三人を見てきたおかげで、ああは絶対になりたくないと勉強だけはかなりやってきた。
私はどうしょうもなくガサツでクソビッチではあるが、これでもある程度偏差値の高い大学に通ってんだよ。
だからロマンスグレーセバスチャンに聞きながら乗り切れる自信はある!!
やってやんぞーーッ!!


ロマンスグレーセバスチャンに課せられた書類仕事を黙々とこなしていく。

ちゃんとやれてんじゃん、私!!
我ながらのみ込みだけは早いよな。
何時間くらい経ったんだろう……?

『レオナルド様、まもなくご昼食のお時間となりますので、ご休憩なさって下さい』

『もうそんな時間か……』

『今朝のレオナルド様の集中力には驚かされました。いつもより手際がよろしいようで、大変素晴らしいです』

ーーこのレオナルドって奴……きっと要領わりぃ頭の足りん男だったんだろうな。

❤︎❤︎

昼食を終えた私は、レオナルドの婚約者のマリアンヌとやらが来るのをエントランスで待っていた。

ーーたいそうなことだ……

なんで来る前からジッとこんなとこでボーーッと立って待たされてんだか……?
待たせることはあっても、待ったことなんて今までない人生だったのに。

それからしばらくすると、マリアンヌとやらを乗せているであろう馬車が見えてきた。
こっちへ近づいてくる。

そういや……何を話せばいいんだ?
婚約者って言っても私は会ったこともない相手だと言うのに。

ーーどうすりゃいい……?

私の前に馬車が停まって、扉が開くと、マリアンヌらしき女が馬車から降りてきた。
うつむきながらドレスの裾を持ち、挨拶をする。

『ご機嫌よぅ…… レオナルド様……お待たせいたしました……』

ん……この女……ご機嫌よ〜〜っとか言っちゃってるけど、うつむいたまんま全然私と目を合わそうともしないじゃん!!
しかも、葬式帰りかってくらいにめちゃクラッ!!
ニコリともしてない!!
声も虫の息かってくらい小さっ!!
これが婚約者に会う女の態度なのかっ!?

ーーそ、そうだ、私も挨拶…………

『初めまして!! マリアンヌッ!!』

うわっ、、あまりにも動揺し過ぎて言い間違えた!!

初めましてじゃねーー。

……って、マリアンヌさんよ……私の言い間違いも全くスルーかよ。
まだ黙ってうつむいたままだし……
せっかくの綺麗なブラウン色した長いゆるふわウェーブヘアが、うつむきすぎてサタ子みたいになってんじゃん。
ホラーかよッ!!!!

ーーどうなってんだっ?

❤︎❤︎

天気がいいからとラナに提案され、うつむきマリアンヌと私は屋敷の庭で二人っきりで茶をするはめになってしまった。

それにしてもこれまた、だだっぴろい庭だなーーーー!!
うひょーーーーォ!!!!
噴水まであんじゃん!!
この屋敷……ヤバすぎんだろう!!
須藤家の35年ローンの一軒家なんて、ここの屋敷に比べりゃシルバニアンファミリー状態だな。

……てか……まだうつむいたままかよ……うつむきマリアンヌさんよっ!!
クレーー女だなーー。
サタ子顔負けじゃん。
私以外の正常な女なら、キャッキャッ言って喜びそうな花と緑の楽園みたいな庭で、こんなに悲愴感たっぷりでいれるこのうつむきマリアンヌも珍しい女だな。

どうすっかなーー?
こっちは初めて会ったばっかで何話していいのか分からんから困んだよなーー。

心底に面倒だなーーっと考えていたら、ラナが茶と菓子を運んできた。

『こちらハーブティーとレモンパイでございます。どうぞお召し上がり下さい』

茶菓子もシャレてんなーー!!
須藤家では茶といえば麦茶か緑茶だったし。
菓子といえば煎餅、かりんとう、饅頭が定番だった。
私には上品過ぎて口に合わんかも……
まっ、せっかくだし食おう。

いただきやーーす!!
ガブッ、、
うおーーッ!!
レモンパイ、めちゃウメーーーーぇ!!
こりゃ感動もんだ。
やっぱ花より団子だよなーー。

……って、おいッ!!!!
いい加減にしろよ!!うつむきマリアンヌッ!!
いつまでうつむいてやがる……とっとと食えよッ!!
ほんとっ、面倒な奴!!

ーーどうなってんだこの女はッ!?

こんな陰気な女に気ぃ遣ってやる必要もねーーが、一応は婚約者だってことだから話しかけてやるか。

『マ、マリアンヌ…… レモンパイ、食べたら?』

『…………。』

なんだよっ、優しく言ってやってんのに……うつむいたまま無視かよっ!!
ほんとっ感じわりぃ女だなーー!!
だんだん腹立ってきたわッ!!
もうハッキリ言ってやろ。

『顔、上げなよ!! ずっとうつむいたままだと首痛めるから!!』

そんなじゃ茶もできねーーし。

『…… 今日は……ちょっと……』

はあ?
何が今日はちょっと、なんだ?
ますます訳の分からん女だなーー。

『いいから顔上げなッ!!』

私はうつむきマリアンヌのアゴに手を当て、無理矢理グイッと顔を上げてやった。
するとうつむきマリアンヌがどんどん涙ぐんでいく。

ーーへっ……な、なんで……?

驚きのあまり慌てて手を離した。

ど、どうしよう……まさか泣くほど顔上げたくないとは思わなかったな……

ーー完全にやらかしちまった。

『…… こ、このような顔で……すみません。レオナルド様……』

突然にうつむきマリアンヌが申し訳なさそうに謝りだし、そしてまたうつむいた。

『え……?』

何がなんだか意味が分からん……このような顔って……?

『今日……慌ただしく屋敷を出てしまい、そばかすを消し忘れてしまったんです……』

…………へっ!?

何?そばかす?どーーゆこと?
そんなしょーーもない理由でずっとうつむいてたってゆーーの?

『えーーと、それが何か……?』

あまりにも拍子抜けな理由すぎて聞き返さずにはいれん!!

『…… 以前にレオナルド様が私に仰っていたではありませんか……レオナルド様にお会いする時は、しっかりとこの顔のそばかすが見えないように、化粧で隠してから会いに来るようにと……』

うわ〜〜、、レオナルド……お前……顔はめちゃいいけど最低な男だったんだなッ!!!!

いや……ようよう考えりゃ……この私が今、最低な男レオナルド本人になってんじゃんかよッ!!!!






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