小説家と毒の果実
ここはエスメラルダ王国。通称緑の国。豊かな自然が数多く残され、街中には花がたくさん育てられている植物の楽園とも呼ばれる国だ。

王都から少し離れた町にある一軒家では、一人の青年が床にゴロンと寝転がっている。その部屋は足の踏み場がないほど散らかっており、唯一片付いているのは木製のテーブルくらいである。

「ニャア」

鳴き声を上げて一匹の白い猫が青年に擦り寄る。青年は「フフッ。擽ったいよ〜。アダム」と笑った。その時、「何この家!!」と大きな声が響いた。青年はむくりと気怠そうに体を起こす。長い紫がかった髪がサラリと流れていった。

青年は立ち上がり、声のした方へとゆっくりとした足取りで向かう。ドアを開ければ、廊下にも洗濯物や物が散らばっている。人様を呼べる家ではない。

「ミア、来たの〜?」

慣れた様子で散らかった廊下を歩いて青年は玄関に向かって声をかける。すると、目の前に一人の女性が一瞬で姿を見せた。ブラウンのショートカットに赤いドレスを着た女性だ。
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