君が帰るところが私って言ったから、私も帰るところは君
 夏美は、大阪に帰って来た。実家に荷物を置いて、小学校前の丘を登り始めた。長い髪を一括りにしながら思った。

 帰ってきたなぁ、まだ五月も経ってないのに懐かしい。この丘に来るのはもっと久しぶりやな。小学校の頃、春奈が嫌がるのにセミ取ったり。展望台から花火大会見たりしたな。

 夏美と春奈は小学校から大学まで、ずっと一緒だった。バイトさえも一緒だった。就職は違った。春奈はバイトしてたドラッグストアのチェーンに、夏美は東京のアニメグッズの会社に就職した。そして、夏美は声優を目指して、働きながら専門学校に通っていた。

 しかし、夏美は、ちょっと挫けていた。時間が足りなかった。体力がもたなかった。そして、不安になっていた。
 ゆっくりと登るうち、展望台が見えてきた。ベンチに春奈が座っていて、夏美に気が付いて手を振ってる。今日も白のワンピースを着てる。

 夏美は約束どおり春奈が来てくれたと思った。

「春奈!」

「夏美!」

 夏美は春奈に駆け寄って、春奈の隣に座った。

「東京来てくれて、ありがとう」

「いや、友達やし、体、大丈夫?」

 笑顔で春奈は言った。

「もう、どうも……ないかな。元気、元気」

 夏美はちょっとごまかしてる感じになった。

「ホンマに? 体もやけど、心の方が心配かな」

「そっちなぁ、ちょっと早いけど転職、考えなあかんかなと思てんねん」
 
「夏美、声優はあきらめへんやんな?」

「ちょっと、本当はそれもあきらめようかなと思てる」

「そうなん……、ひとまずは、それもええかもしれへんな」

 春奈は夏美に向き直って、話だした。

「私さぁ、大阪というか、実家離れられへんと思ててん。母親が腰わるくて車椅子生活やし、介助してる親父は癌の手術、四回もしてて健康心配やし、私は実家暮らしやないとあかんと思てた。そやから、夏美のこと、うらやましかった」

「うん」

 夏美は真剣に聞いている。

 春奈は続けた。

「でも私自身、良く考えたら、東京とか行く理由もないねん。夏美は声優、私は小説書きたいなと思てた。小説はここでも書ける。まだ、ひとつしか書けてないけど。せやから、大阪でもいいねん。でも、夏美と一緒にいたかった。夏美のこと、気にかけられるし、私も元気もらえるはずやし」

 そういうと春奈は少しうつむいた。

「ありがとう、春奈、今日、会えて良かった。春奈のところに帰って来て懐かしいというか、胸いっぱいや。大阪は気持ちが落ち着く。春奈といるのが一番心地いい。春奈が心のふるさとや」

「ホンマに、……嬉しい。私も夏美が心のふるさとやで」

 春奈の曇った顔は、少し晴れやかな顔になっていた。

「そや、小説やねんけど、ほぼ完成したから、読んで欲しい。私の実家寄って」

「見せてくれるんや。タイトルは」

「『君が帰るところが私って言ったから、私も帰るところは君』って言うタイトル」

「長いタイトルやな、読む読む」
< 2 / 4 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop