恋雪
健斗が玄関扉を開けてから私の脇を抱えるようにして立ち上がらせる。私は健斗に迷惑かけられないと足を踏ん張るが、思った以上に動かなくて健斗に体を預けるので精一杯だ。

「おもっ」

「うっさい」

いつもならダウンライトがついているのに家の中は真っ暗だ。

「暗……」

「母さんたち、旅行行ってるから」

「え? そうだっけ?」

「結婚10周年旅行って言ってたじゃん。てか酔っ払いに話しても無駄だな」

「聞いてますけど」

「そ。LINE見てないと思うけど、明後日お土産買って帰ってくるってさ」

(じゃあいま健斗と二人きりなんだ)

そんなことがふと頭に浮かぶ。

別に嬉しいとも思わないけど勿論嫌じゃない。
でも虚しい。苦しい。
隣にいるのに手が届かない。
手を伸ばしちゃいけない。

年頃の男女が部屋に二人きり。そして女は酔い潰れていて長年の想いを告白する。そして二人は気持ちを確かめ合い結ばれる。
そんなの漫画かドラマの話。

「もうすぐ俺も家出んだし、酒やめたら?」

「無理。飲まなきゃやってらんない」

「マジで姉貴は酒癖どうにかしないと、いき遅れるよ?」

「関係ないでしょ」





< 3 / 9 >

この作品をシェア

pagetop