求婚は突然に… 孤独なピアニストの執着愛
ホテルをチェックアウトして、紫音さんの車で少しドライブする。
ドレスもアクセサリーも全て、報酬という名の私へのプレゼントだと言うから、大事にしたいと丁寧に箱に閉まって持って帰って来た。
だけど…左手の指輪だけは外すタイミングを逃してしまい、付けたまま…。
気にせず外せば良かったのに、紫音さんの指にもまだペアリングがそこにあり、私だけ勝手に外してしまうのは気が引けた。
助手席から流れる都会の景色を見つめ、車のBJMに耳を傾けていた。
ピアニストの紫音さんの選曲だから、クラッシックを聴くのかと思えば、そういう事は全くなくて、最近の巷に溢れるポップソングだったり、懐かしい80年代の曲だったりと、多種多様に富んでいた。
「あっ…この曲…懐かしい。高校時代に紫音さん弾いてませんでした?」
懐かしい音楽が流れて来て、つい聴いてしまう。
「ああ、毎日走る心奈を応援したくて、これは君への応援歌のつもりだった。」
「へっ…⁉︎」
初めて聞く真実に驚く。
「私が…陸上部だって知ってたんですか?」
信じられない真実に、瞬きしながら運転する紫音さんの横顔を、つい見つめてしまう。
「…実は、心奈の事は入学式の時から知っていた。…引くなよ?ストーカーとかでは無いからな⁉︎」
初めて知った真実は衝撃的なものだった。
知らないうちに知らないところで、応援されていた…。
そして…そのそんな事も知らずに、そのピアノの音に励まされ、恋をしていた私…。
どんな人が弾いているんだろうと興味を持ち、覗きに行ったあの時に…本当の事を話していたら、何か変わっていただろうか…?
「私が筆箱を取りに行った時…既に私の事知ってたんですか?」
「名前も、クラスも知っていた。
だけど夏休みに入ったら留学する事が決まっていたから、何も言えなかったんだ…。
後悔はしたよ…。留学先に行ってからもずっとその事が心残りだった。」
「後悔…?」
「君に、もしも気持ちを打ち明けていたら…って、もう二度と会えないだろうと思うと、後悔しかなかった。」
そう言って、紫音さんはポツポツと自分の身の上話しをし始める。
中学の時に母親が事故で亡くなった事…それから空虚な日々を過ごし、自分が何の為にピアノを弾くのか分からなくなっていた事。
その頃に父親が再婚して、家に自分の居場所が無くなった事…
彼から聞く彼の学生時代は、とても切なくて、寂しくて…孤独だった。
「母が喜ぶから始めたピアノだったから、母親が突然いなくなって、ピアノを弾く事に何の意味も見出せなくなっていたんだ。
そんな時に、毎日一生懸命、直向きに走っている心奈の姿を見つけて、単純に凄いなって…知らないうちに俺が励まされていた。」
そう言って静かに笑う紫音さんに、胸がギュッと苦しくなった。
「そんな…事、全然知らなくて…私から見た紫音さんは華やかで、いつも女子に囲まれていて…遠い存在でした…。だから、あえて名前を知る事も諦めていて…。」
知らないうちに涙が一筋溢れ落ちる。
それを紫音さんに気付かれたくなくて、唇をギュッと噛む。
「あの時、もっと話しかければ良かった…。
まぁでもそしたら、出会えなかったかも知れないな。心残りがあったからこそ、君の名前を忘れられなかった。
…心奈…?」
赤信号で停まった紫音さんが不意にこちらを見て来るから、泣いてる事に気付かれてしまう。
「どうした!?何で…?」
焦って車を路肩に停車して、心配そうに私にティシュボックスを渡してくれる。
「ごめんなさい…泣くつもりは…無くて。」
止めどなく溢れ出した涙は、自分でも制御不可能で…止める事が出来なくなる。
「ごめん…抱きしめてもいいかな…。」
そう言われ、えっ?っと思っている間に抱きしめられる。
胸が苦しくて…。
その暖かな温もりが愛おしくて…止めるどころか、ヒックヒックと呼吸まで乱れてきてしまう。
「えっ…発作じゃないよね⁉︎」
驚く紫音さんはパッと手を離してしまう。
私は慌ててブンブンと首を横に振る。
そんな私に安堵しながら、彼は優しく包み込む様に抱きしめて、背中をトントンと優しく撫ぜてくれた。
早く涙を止めなければと焦る私は唇を噛む…
「心奈…。唇、噛まないで、血が出てる…。」
それに気付いた紫音さんが私の頬を撫ぜ、刹那そうな顔をする。
そして…
「ごめん…後でたくさん叱られるから。」
そう言ったかと思うと同時に、私の唇に軽くキスをする。
啄むようにゆっくりと様子を伺いながら…
血が滲む下唇を舐められて、吸われ…
私はというと…衝撃的過ぎて…固まる。
「怖いか?嫌じゃない?」
と聞いてくるから、フルフルと小刻みに首を横に振る。
ただ、ドキドキし過ぎて心臓が痛い…。
少し私の様子を見ていた彼がまた、
「ごめん…嫌だったら殴って止めてくれ。」
と、私のメガネを奪い取る。
えっ…?と思っている間に、また唇が降り注ぐ。
初めてのキスはどうしていいの分からず、息が乱れ、目はギュッとつぶったまま…
「口、開けて?」
何度目かのキスでそう言われ、
「えっ…!?」
と思わず聞き返す。
その拍子に、スルッと彼の舌が滑り込む。
「…あっ……っん……。」
舌が絡め取られ、口内を蹂躙される…
優しく深く、慰められるように。
さすがの息苦しさに、手を突っ張って彼の身体を押し返すと、
「ごめん…怒った?」
と、彼が心底心配そうな顔でこちらを見てくるから、ブンブンと首をまた横に振ると、
「殴っていいよ。」
と、反省しているのか、していないのか…今度は楽しげだ…。
私はフルフルと首を横に振り、真っ赤になった顔を両手で隠して俯く。
キスをしてしまった衝撃は大き過ぎて、気付けば涙は止まっていた…。
ドレスもアクセサリーも全て、報酬という名の私へのプレゼントだと言うから、大事にしたいと丁寧に箱に閉まって持って帰って来た。
だけど…左手の指輪だけは外すタイミングを逃してしまい、付けたまま…。
気にせず外せば良かったのに、紫音さんの指にもまだペアリングがそこにあり、私だけ勝手に外してしまうのは気が引けた。
助手席から流れる都会の景色を見つめ、車のBJMに耳を傾けていた。
ピアニストの紫音さんの選曲だから、クラッシックを聴くのかと思えば、そういう事は全くなくて、最近の巷に溢れるポップソングだったり、懐かしい80年代の曲だったりと、多種多様に富んでいた。
「あっ…この曲…懐かしい。高校時代に紫音さん弾いてませんでした?」
懐かしい音楽が流れて来て、つい聴いてしまう。
「ああ、毎日走る心奈を応援したくて、これは君への応援歌のつもりだった。」
「へっ…⁉︎」
初めて聞く真実に驚く。
「私が…陸上部だって知ってたんですか?」
信じられない真実に、瞬きしながら運転する紫音さんの横顔を、つい見つめてしまう。
「…実は、心奈の事は入学式の時から知っていた。…引くなよ?ストーカーとかでは無いからな⁉︎」
初めて知った真実は衝撃的なものだった。
知らないうちに知らないところで、応援されていた…。
そして…そのそんな事も知らずに、そのピアノの音に励まされ、恋をしていた私…。
どんな人が弾いているんだろうと興味を持ち、覗きに行ったあの時に…本当の事を話していたら、何か変わっていただろうか…?
「私が筆箱を取りに行った時…既に私の事知ってたんですか?」
「名前も、クラスも知っていた。
だけど夏休みに入ったら留学する事が決まっていたから、何も言えなかったんだ…。
後悔はしたよ…。留学先に行ってからもずっとその事が心残りだった。」
「後悔…?」
「君に、もしも気持ちを打ち明けていたら…って、もう二度と会えないだろうと思うと、後悔しかなかった。」
そう言って、紫音さんはポツポツと自分の身の上話しをし始める。
中学の時に母親が事故で亡くなった事…それから空虚な日々を過ごし、自分が何の為にピアノを弾くのか分からなくなっていた事。
その頃に父親が再婚して、家に自分の居場所が無くなった事…
彼から聞く彼の学生時代は、とても切なくて、寂しくて…孤独だった。
「母が喜ぶから始めたピアノだったから、母親が突然いなくなって、ピアノを弾く事に何の意味も見出せなくなっていたんだ。
そんな時に、毎日一生懸命、直向きに走っている心奈の姿を見つけて、単純に凄いなって…知らないうちに俺が励まされていた。」
そう言って静かに笑う紫音さんに、胸がギュッと苦しくなった。
「そんな…事、全然知らなくて…私から見た紫音さんは華やかで、いつも女子に囲まれていて…遠い存在でした…。だから、あえて名前を知る事も諦めていて…。」
知らないうちに涙が一筋溢れ落ちる。
それを紫音さんに気付かれたくなくて、唇をギュッと噛む。
「あの時、もっと話しかければ良かった…。
まぁでもそしたら、出会えなかったかも知れないな。心残りがあったからこそ、君の名前を忘れられなかった。
…心奈…?」
赤信号で停まった紫音さんが不意にこちらを見て来るから、泣いてる事に気付かれてしまう。
「どうした!?何で…?」
焦って車を路肩に停車して、心配そうに私にティシュボックスを渡してくれる。
「ごめんなさい…泣くつもりは…無くて。」
止めどなく溢れ出した涙は、自分でも制御不可能で…止める事が出来なくなる。
「ごめん…抱きしめてもいいかな…。」
そう言われ、えっ?っと思っている間に抱きしめられる。
胸が苦しくて…。
その暖かな温もりが愛おしくて…止めるどころか、ヒックヒックと呼吸まで乱れてきてしまう。
「えっ…発作じゃないよね⁉︎」
驚く紫音さんはパッと手を離してしまう。
私は慌ててブンブンと首を横に振る。
そんな私に安堵しながら、彼は優しく包み込む様に抱きしめて、背中をトントンと優しく撫ぜてくれた。
早く涙を止めなければと焦る私は唇を噛む…
「心奈…。唇、噛まないで、血が出てる…。」
それに気付いた紫音さんが私の頬を撫ぜ、刹那そうな顔をする。
そして…
「ごめん…後でたくさん叱られるから。」
そう言ったかと思うと同時に、私の唇に軽くキスをする。
啄むようにゆっくりと様子を伺いながら…
血が滲む下唇を舐められて、吸われ…
私はというと…衝撃的過ぎて…固まる。
「怖いか?嫌じゃない?」
と聞いてくるから、フルフルと小刻みに首を横に振る。
ただ、ドキドキし過ぎて心臓が痛い…。
少し私の様子を見ていた彼がまた、
「ごめん…嫌だったら殴って止めてくれ。」
と、私のメガネを奪い取る。
えっ…?と思っている間に、また唇が降り注ぐ。
初めてのキスはどうしていいの分からず、息が乱れ、目はギュッとつぶったまま…
「口、開けて?」
何度目かのキスでそう言われ、
「えっ…!?」
と思わず聞き返す。
その拍子に、スルッと彼の舌が滑り込む。
「…あっ……っん……。」
舌が絡め取られ、口内を蹂躙される…
優しく深く、慰められるように。
さすがの息苦しさに、手を突っ張って彼の身体を押し返すと、
「ごめん…怒った?」
と、彼が心底心配そうな顔でこちらを見てくるから、ブンブンと首をまた横に振ると、
「殴っていいよ。」
と、反省しているのか、していないのか…今度は楽しげだ…。
私はフルフルと首を横に振り、真っ赤になった顔を両手で隠して俯く。
キスをしてしまった衝撃は大き過ぎて、気付けば涙は止まっていた…。