野いちご源氏物語 〇九 葵(あおい)
 二条(にじょう)(いん)では誰もが源氏(げんじ)(きみ)のお帰りを心待ちにしていた。屋敷じゅうを美しく整え、女房(にょうぼう)たちはうきうきとめかしこんでいる。左大臣(さだいじん)(てい)の暗い雰囲気(ふんいき)を源氏の君は悲しく思い出された。
 着替えをしてから西の離れへお渡りになる。若紫(わかむらさき)(きみ)の部屋は、すっかり冬物で整えられていた。若い女房や女童(めのわらわ)たちもお行儀(ぎょうぎ)のよい格好をしている。姫君(ひめぎみ)乳母(めのと)が上手に取り仕切っているらしい。源氏の君は安心なさった。
 姫君はとても美しく()(かざ)っていらっしゃる。
「しばらくお会いしなかったから、ずいぶん大人びたのではないですか」
 源氏の君がそっとついたてを動かしてごらんになると、姫君は目をそらして恥じらわれた。
中宮(ちゅうぐう)にそっくりだ>
 姫君のご成長ぶりに思わず笑みがこぼれる。
 
 そばに寄って、会えなかった間のことを少しお話しになった。
「落ち着いてもっといろいろと聞かせてあげたいけれど、人が亡くなったばかりですからね。一緒に寝るのは縁起(えんぎ)が悪いでしょう。私は他の場所で休んで、朝になったらまた遊びにきます。これからはずっと一緒ですよ。うっとうしくお思いになるかもしれない」
 そうお約束なさるのを乳母はうれしく聞いていた。しかし心配なこともある。
<ご正妻(せいさい)が亡くなっても、他に身分の高い恋人がたくさんいらっしゃるのだもの。すぐに別の方が正妻の座にお()きになるのでは>
 このまま平穏(へいおん)ではいられないだろうと気を回していた。
 源氏の君はご自分の部屋で休み、翌朝、左大臣(さだいじん)()若君(わかぎみ)のところへ手紙をお送りになる。若君の乳母から心細そうな返事が届いた。悲しみばかりが(つの)っていく。
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