野いちご源氏物語 〇九 葵(あおい)
 桐壺(きりつぼ)(いん)は、ひさしぶりにお会いになった源氏(げんじ)(きみ)のお姿に驚かれた。
「ひどく顔がやせている。お(きょう)ばかり読んで、ろくに食べていなかったのではないか」
 かわいそうに思って食事をお出しになった。あれこれと世話を焼かれるご様子が恐れ多い。

 それから源氏の君は、藤壺の中宮(ちゅうぐう)のところへご挨拶(あいさつ)に上がられた。
「奥様はおいたわしいことでございましたね。時が()てば経つほど、つらくおなりなのではありませんか」
 中宮は女房(にょうぼう)を通じて源氏の君を気遣われた。
「命は永遠ではないと分かっておりましたが、死を()()たりにするのはつらいことでございました。あなた様からのお見舞いにどれほど救われたことでしょう。おかげさまで、またこちらに(うかが)うことができました」
 源氏の君は、(あおい)(うえ)を亡くしたお悲しみと、あらためてわきあがる中宮への許されぬ思いとで、二重に苦しんでいらっしゃる。その喪服(もふく)姿はいつもの華やかな格好よりもお美しいくらいだった。
東宮(とうぐう)にも長くお目にかかっておりません」
 気がかりそうにそんな話もなさって、夜が()けてから二条(にじょう)(いん)へお帰りになった。
< 32 / 40 >

この作品をシェア

pagetop