崖っぷち漫画家はエリート弁護士の溺愛に気付かない

3.乗り越えろ、修羅場!⑤

「どうして時間があったはずなのに最後足りなくなるんだろ……」
「いくら描き込んでも、時間がある限り足しちゃうのが漫画家って生き物だからかなぁ」

 締め切り当日の金曜日。デジタルにした最大の利点は、締め切り当日のギリギリの時間まで粘れることかもしれない――なんて考えながら、原稿を送信する。すると増本さんからすぐに受け取りの連絡が来た。
 無事届いた、とメールを見ながらはぁぁ、と大きくため息を吐いた私は寝不足を極め、疲れきっているはずなのに脱稿した高揚感で目だけ冴えている。

(浅見とも普通でよかった)
 一瞬感じた不穏な雰囲気がまるで嘘のように、その後の作業が順調に進んだことに安堵した。
 在宅作業のアシスタントさんも交えて通話アプリで音声を繋ぎながらの三人作業がよかったのか、大きなトラブルもなく浅見とも普通に会話が弾んだし、なんだかんだでいつもの如く締め切りギリギリではあったが無事に脱稿したことに心の底からホッとしていた私は、その安心感から完全に脱力して椅子にもたれかかる。

「部屋荒れたねぇ」
「いつものことだけどね」
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