怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
「……っ」

「やっぱり、間違いないみたいですね。今後のために、この写真は私のほうで保存しておきます」

 私が恐怖のあまり硬直していると、優流はスマートフォンの画面を閉じた。

 今こうしている間にも、木下がどこかに潜んでいるかもしれない。そう思った私は、無意識にキョロキョロと辺りを見回していた。

「見る限り、さっきの男の姿は見当たりませんので、安心してください」

「っ、ありがとうございます」

「ただ……とりあえず、昨夜の件とこのことは職場の方に報告してください。それと、今日も仕事終わりは八時過ぎですか?」

「は、はい……」

 今日も早番と遅番の通し勤務のため、帰りは遅くなる。今の状況で、夜の時間帯に一人で公園近くを通るだなんて到底無理だった。

「分かりました。自分も仕事が終わるのはそれぐらいの時間なので、また待ち合わせしましょう。連絡先、交換してもらえますか?」

 スマートフォンのメッセージアプリを起動して、私は優流と連絡が取れるようにした。申し訳なさよりも木下への恐怖心が勝ってる今、彼の存在は心強いものである。

「ありがとうございます。それでは、裏口の前に着いたら連絡しますので、それまでは絶対に建物内にいてください。よろしいですか?」

「分かりました。ありがとうございます」

 一緒に帰る約束をして、私たちは別れたのだった。
< 21 / 120 >

この作品をシェア

pagetop