怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
「……」

 百貨店の最寄り駅に着く頃には、恥しさのあまりもんどりを打ちそうな気分もだいぶ落ち着いていた。

 というのも、今日の行き帰り何もなければ、今後の送り迎えは断ろうと思ったのだ。おそらく、優流と顔を合わせることはもうないだろう。そう思うと、気分がだいぶ楽になったのだ。

 特に変わったこともないし、大丈夫よね?

 通勤経路である小さな公園の傍の道を歩きながら、私は心の中で呟いた。

 すると突然、優流はポケットからスマートフォンを取り出して、公園に向けて写真を一枚撮った。サイレントカメラだったようで、シャッター音は鳴らない。

 スマートフォンを持ち変えるフリをして撮影していたのを不思議に思っていると、優流は片手を引いて私の身体を寄せてきた。

「!?」

「高階さん、少し早足で歩けますか?」

「は、はい……」

 雑談していた時とは打って変わって、厳しい口調で優流は言った。その理由は分からなかったが、私は彼の言う通り足を早めた。

 公園の近くを通り過ぎ、しばらくして百貨店の裏口前にたどり着く。そこで立ち止まってから、優流は口を開いた。

「高階さん、どうか、落ち着いて聞いてほしいのですが……」

「はい……?」

「さっき撮影した写真です。この服装、待ち伏せしていた客ではないですか?」

「!?」

 スマートフォンに写っていたのは、公園のベンチに一人座る、赤いウインドブレーカーを着た男の姿。遠目なので断定はできないが、おそらく木下で間違いないだろう。
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