怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
『あと、木下様の接客は、絶対一人でしたら駄目よ。必ず、近くで一人は見張り役を付けること。良いわね?』
「承知しました」
返事をしながら、私は木下の件がだんだんと大ごとになっていく罪悪感に苛まれていた。
『ねえ、高階さん。貴女の身の安全を考えると、やっぱり店舗異動をしたほうが良いと思うわ』
先ほどとは違う、諭すような口調で店長は言った。
「それは……林副店長が復帰されたら、考えようと思います」
うちの店は元々、責任者は店長一人と副店長二人の、三人体制だ。しかし、林副店長が産休と育休で抜けたことにより、一時的に副店長は自分一人になっている。
美容部員は離職率も高いため、慢性的に人手不足だ。加えて責任者になるには試験に合格しなければならないので、なかなか昇格できない。
自分が異動したら、この店の責任者は林副店長が復帰するまでは店長一人になってしまう。人員の補充が早急に行われるとは到底思えなかった。
『それは最短でも数ヶ月先の話でしょう? それまでに何かあったら大変よ』
「っ、しかし……」
『高階さん。美容部員の仕事って、続けられる子が本当に少ないのよ』
「……?」
『売上目標もあるし、接客の難しさもあるし……挫折する子がたくさんいるわ。続けられる子の中でも、ずっと努力していける子はひと握り。貴女みたいな、ね』
「……っ」
『私はこんなことで、貴女を潰したくないわ。だから、異動のこともきちんと考えてちょうだい』
「……承知しました」
店長は、入店してからずっと私を見てくれていた人だ。そんな彼女の言葉に、私は胸が熱くなるのを感じた。