怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
「お待たせしました、って……え?」

 終業後、優流から店の裏口の前に着いたとメッセージが来たので外へ出ると、そこには私を待っていた彼と、一台の黒いタクシーが停まっていた。

「お疲れ様です。やはり夜道は危ないと思ったので、タクシーを呼んでおきました。どうぞ、乗ってください」

「え、は、はい……」

 断るのも気が引けて優流と共に後部座席に乗ると、タクシーは走り出した。彼が事前に運転手に道を伝えていたようで、タクシーは夜の道をスイスイ進んでいく。

 車内は空調がきいており、座席シートも柔らかくてとても快適だ。だが、しばらくして私は、とある違和感に気づいた。

 このタクシー……快適だけど、快適すぎるような……?

 どうにも、今まで乗ったタクシーよりも、やけに車内が広いのだ。例えるならば、新幹線の自由席とグリーン席ぐらいの違と言おうか。やけに贅沢に、スペースが使われている。

 それだけではない。運転席と助手席の背中部分には小型テレビが備え付けられており、番組選択の画面が表示されている。

 思い返せばドアを開けてくれた運転手も、執事のようなきちんとした振る舞いだった。

「テレビ、何か見られますか?」

「い、いえ……お構いなく」

 安心したはずなのに、私は別の意味で嫌な予感がしていた。

 その予感は、会計の時に的中することとなる。

「お疲れ様でございました。お会計金額はこちらになります」

「ありがとうございます。クレジットカードでお願いします」

「かしこまりました」

 マンションの前でタクシーが停まった時、メーターに表示された金額を見て、私は目を疑った。

 私たちが乗ったのは、いわゆる高級タクシーだったのだ。
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