怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
しかし優流は、思いもよらぬ言葉を口にした。

「申し訳ございませんが……自分はおしゃれですとか、ファッションに疎いものでして」

「なっ……!」

「せっかくの懇親会ですので、難しいことは考えずに楽しみませんか?」

 それとなく話を終わらせて、優流は私を庇ってくれたのである。

「えっ……あっ、そ、そうですわね……」

 優流にそう言われてしまえば、真子もこれ以上私を貶すことはできない。彼女は納得いかないような表情で、口をモゴモゴさせていた。

「それでは、私たちはまだ挨拶回りがありますので、一旦失礼します。では、行きましょうか」

「は、はい……っ」

 優流にエスコートされ、私は歩き出した。

「……っ」

 知らぬ間に腰の上あたりに手を回されていることに気づき、ドキリと心臓が跳ねる。

 彼としてはパーティーでの最低限のマナーを守っているだけかもしれないが、私は意識せずにはいられない。

 身体的な距離が狭まったことで、優流のジャケットの繊維の匂いが鼻を掠める。彼を近くに感じて、私は胸がドキドキするのを感じた。

「あの、御堂さん……?」

 ふと顔を上げると、私は広間の出口へと向かっていることに気づいた。
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