怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
「同じフロアで働いてるのに、何だか会うのは久しぶりね。元気?」

「ああ、もちろん。……今度の限定商品の発売には、今からビクビクしてるけど」

「月島君のとこはいつも、限定品の発売日は整理券配るぐらい修羅場だもんね」

 専門学校時代のクラスメイトということもあり、涼太とは気軽に話せる間柄だ。たわいのない会話も、自然と続いていく。

「そう言えば……例の男性客、大丈夫?」

 心配そうな声色で、涼太は言った。

 男性客とはもちろん、木下のことである。特徴的な服装ということもあり、木下はコスメフロアで働く美容部員たちの間では、もはや有名人なのだ。

「変なことされてない? 高階さんのところって、副店長がひとり不在だし、うちの店みたいに男性スタッフがいないから、何だか心配でさ」

 涼太は昔から優しい性格で、美容部員となった今も客からの評判がとても良いと聞いた。きっと接客でも、こういったさりげない気配りを忘れないのだろう。

「大丈夫よ。うち、店長が頼もしい人だし、他のスタッフの子たちも色々助けてくれるから」

「そっか、なら良かった。いつの間にか、このフロアで働く学生時代の友達も、高階さんぐらいしか残ってないし……迷惑客のせいで辞めちゃったら、寂しいからね」

 専門学校の同級生で、この百貨店のコスメブランドに就職した子は何人もいたが、異動や退職により、気づけば私たち二人だけが残っていた。それぐらいに、人の入れ替わりが激しい業界なのだ。
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