怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
「情状酌量の余地があるにも関わらず、あまりにも厳しい判決が下されたり、反対に凶悪犯罪であっても量刑が軽かったり……裁判の判例を調べてみると、そんな内容がたくさんありました。だから自分は、正しい判断を下せる存在になりたい。そう思って、裁判官になったんです……っ、いきなり重い話をしてしまってすみません」

「いっ、いえ……公正な判断をするのって、すごく難しいと思うんです。私には絶対できないことで……すごい世界だなって、圧倒されちゃって」

 それは、凛と裁判を傍聴した時にも思ったことだった。

 裁判で弁護側は、被告人が詐欺をはたらいたのは生活苦からであり、病気で働けない両親を養うためにやむを得ず犯罪に手を染めてしまったため、更生の余地は十分にあると主張した。

 しかし検察側は、被告は被害者に莫大な経済的損失を与えており、社会的責任は免れないと主張していた。

 被告が経済的に困窮していたこと、被害者が金銭を騙し取られたせいで生活が厳しくなっていたことは、どちらも事実である。両者どちらにも肩入れすることなく判決を下すなんて、私には到底できないことだ。
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