怜悧な裁判官は偽の恋人を溺愛する
「普通に考えれば、俺と太一以外の生徒を先に帰らせれば良い話です。けれども、太一が謝らない限り、ホームルームは終われないと教師は言い張った。教師がそう言った途端、太一は一気にクラスメイトたちから責められ始めました」

「っ……」

 その時の太一と優流の気持ちを想像すると、胸が潰れそうだった。

「結局、太一は花瓶を割った犯人として謝罪を強要されました。それでも、俺はどうしても納得できなかった。ホームルームが終わったあと、俺は親に相談しようと太一に言いました。けれども、あいつは頷いてくれなかったんです」

「それは……どうしてですか?」

「父親の仕事の都合でもうすぐ転校するから、もういい、と。……諦めてしまったんです」

「……っ」

「俺はふと、教師がまっとうな判断をしていれば、太一は悪者扱いされずに済んだのだと考えました。そして、ホームルームで起きたような理不尽な出来事は、世の中でも起きてるのでは、と思ったんです」

 テレビで刑事事件の公判が行われたというニュースを見て、優流は司法の世界に興味を持ったという。
< 86 / 120 >

この作品をシェア

pagetop