月とスッポン      ありのままは難しい
石垣から石垣へと渡り歩く。

「高校の石垣が歴史的建造物って、凄くないですか」
興奮する私に
「幼い頃から身近にあると、その価値がわからなくなりそうですね」
と冷ややかだ。

「あの信長が驚愕した石垣ですよ!」
「穴太衆の石垣はすごいとは思いますが、予想以上に興奮している茜に少し引いています」

「はぁ?ちょっと意味がわかりません」
「えっ?そうですね。穴太衆の石垣の最高傑作は」
と話が始まる前に断ち切る。

「そういう事じゃない」
「えっ」

興醒めだ。

「そこは現代でも生き続ける歴史に感動しましょうよ」
「感動は強制されるものではないと思いますが」

「現在も使われているからこその建造物じゃないんですか!ただ美術館に飾って保護するだけじゃないって事ですよ」
「確かにそうですね」

「今ならより良いものが作れるはずなのに、これ以上いいものが作れず、壊れたら替えようにも壊れない。
比叡山だってそうでしょうに。
現代科学を用いれば、仏教の修行など無意味。ただの精神論で、今じゃコンプラ違反の塊じゃないですか!それでも、続けているって事に感銘を受けるし感動します。そういう事ですよ」
「すみません。ちょっと意味がわからないです」

「大丈夫です。言っている私もよくわからなくなってきました」
「なんですか、それは」

「なんだかんだで日吉大社なので、悠久の時を堪能しましょう」
「そうですね。悠久の時の末端にいる今を楽しみましょう」

「そういう事です」
「よくわかりませんが、なんとなくわかった気がします」
< 72 / 183 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop