月とスッポン      ありのままは難しい

正面の鳥居を潜る。
終わりの時間が近づいているだけあって、人は多くなかった。

「《およそ2100年前、10代崇神天皇の時代に創祀された、全国3800余の日吉・日枝・山王神社の総本宮です》」
「ん?今2100年前って言った?まだ2100年じゃないよね?」
「2100年には後70年近く必要ですよ」

この喜びと感動を冷静に返さないでほしい。

「《崇神天皇の時代に比叡山の山頂からこの地に移された事が古事記に書かれています》」
「古事記。古事記かぁ。やっぱり読まないといけないか。でも、読みにくいじゃないですかか、古事記」

「今はわかりやすい現代語訳された古事記もありますので」
「返ったら本屋に行ってみるか」

家にありますよと聞こえたが、私の言葉と重なってしまったので、気のせいだという事にしておこう。

受付を済ませ、石橋を渡る。

「《この石橋は大宮橋と言い、あちらにある走井橋、二宮橋を合わせ【日吉三橋】と呼ばれ、秀吉が寄贈した木橋を江戸時代初期に石橋に作り直したものだそうです》」

「へー」
「《三基ともに木橋をそのまま石橋に作り直したものと言われ、350余年にわたってその姿を保っており、構造的な石橋としては最も古いとされています。
これだけの高度な技術を使いこなせたのは、穴太衆の為せる技ですね》」

「穴太衆!さすがだ。高度な技術をひけらかすためではなく、完璧な仕事をする為の高い技術。さすが職人」
「何か違う気のしますが、それが仕事の本質な気もしてきました」

「難しい事をさらっとやるってかっこよくないですか?」
「確かにかっこいいです」
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