口下手な海上自衛官は、一度手放した元許嫁に海より深い愛を捧ぐ
prologue・16歳の春は、別れの苦い思い出
「別れてくれ」

 あと一か月もすれば、高校二年生に進級する。
 彼が高校の卒業式を終えた、直後の出来事だった。

 金沢(かなざわ) つぐみは将来を約束していた許嫁の安堂 清広(あんどう きよひろ)から、一方的に別れを切り出された。

「どう、して……?」
「すまない。俺は、つぐみと一緒にはいられない」

 交際を終える理由もわからないまま、了承などできるわけがない。
 つぐみは当然、清広と別れるのを嫌がった。

(清広さんと一緒なら、幸せな家庭を築けると信じていた)

 だが──。
 彼女の言葉には一切耳を傾けることなく、別れてくれの一点張り。

(あなたさえいれば、他には何もいらなかったのに)

 つぐみがどれほどずっと一緒にいたいと願っても、清広が頷くことはない。

(大好き、だった。清広さんだって、私を愛していると思っていたのに……。どうして彼は、私とずっと一緒に居てくれないの?)

 みっともなく縋り付いて泣き叫んだ所で、彼の意思が変わらないと言うのならば──。

(何を言っても、無駄だ)

 口を閉ざしたつぐみは、去り行く清広の後ろ姿を茫然と見送ることしかできず──。

 こうして二人の道は、違えてしまった。

(もう、恋なんてしない)

 ──彼女の心に、消えない傷を残して。
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