口下手な海上自衛官は、一度手放した元許嫁に海より深い愛を捧ぐ
「こんにちは。安堂海曹長。わざわざ来てもらっちゃって! ごめんなさいね~」
「いえ……」

 保育園の廊下に顔を出した清広は、教室の扉を覗き込む。
 彼が愛する妻は彼が足を踏み入れた瞬間、廊下の方を振り返った。

 つぐみはふにゃりと肩の力を落として、清広に満面の笑みを浮かべた。

「この臭い、清広しゃん……?」

 どうやら、少し距離があっても独特な匂いだけで最愛の夫を認識できたようだ。

 チューハイの空き缶を握りしめていたつぐみはそれをゴミ箱に捨ててから、荷物を持って立ち上がる。

「えへへ……。お迎え、来てくらしゃったんれすか……?」
「ああ……」
「嬉しい……」

 呂律の回っていないつぐみは千鳥足の状態でよろよろとふらつきながらも、どうにか自分の意思で勢いよく清広の胸に飛び込んだ。

「清広しゃん……。わらし、寂しかったです……」

 妻をしっかりと抱き止めた夫は、彼女から香る甘い匂いにやられて理性を何度も飛ばしかけた。

 ここが自宅なら、今頃つぐみは床に押し倒されてあられもない姿を披露していただろう。

「もっと、夫婦らしいこと、しませんか……?」

 ──清広が必死に欲望を押し留めているなど知りもしないつぐみは、潤んだ瞳で夫を見つめて、小首を傾げて誘ってきた。
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