口下手な海上自衛官は、一度手放した元許嫁に海より深い愛を捧ぐ
『清広さん!』

 いつもニコニコ、小さなひよこのように清広が大好きで堪らなくて。
 彼のあとをついていく彼女の姿はどこにもいないのだと、知ってほしかっただけなのに──。

(どうして、こうなるの……?)

 清広に知ってほしい今のつぐみは、彼のやることなすことに異論を唱えて怒る自分の姿ではない。

(もっと、素直にならなくちゃ)

 何度も自分に言い聞かせながら、つぐみは必死に努力を続けたのだが──。

「清広さんは、変わりましたね」

 何度言葉を重ねても、どうしても彼に対する言葉の棘が抜けない。

(どうして清広さんを不快にする言葉ばかりが、口から出てくるの……?)

 つぐみは気まずい沈黙の中で自己嫌悪に陥りながら、身じろぎすることなくじっと彼の言葉を待ち続けた。

「そうかもしれないな」

 まさか清広から肯定の言葉が聞こえてくるなど、思いもしない。
 つぐみは勢いよく、彼と視線を合わせた。

(なんだか、寂しそう……)

 瞳を潤ませた清広は、彼らしくもないか細い声で彼女に告げた。

「つぐみの前でだけは、俺は安堂清広に戻れる……」

 つぐみはその言葉の意味が理解できず、思わず息を呑む。
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