口下手な海上自衛官は、一度手放した元許嫁に海より深い愛を捧ぐ
「交際するようになったからと言って、無理にすべてを曝け出す必要はない」

 清広に自分の言いたいことを言えない悔しさで落ち込むつぐみの姿を目にした彼は、彼女を勇気づけるように優しい言葉をかけた。

「俺も仕事については、機密事項に該当することが多すぎて、詳細には語れない」
「そう、なんですか……」
「ああ。だから、つぐみが気に病む必要はない。俺達、お揃いだな?」

 幼い頃のつぐみは、なんでも清広と同じものを欲しがった。

 身につける服、食べるもの、ともに過ごす時間、口調を真似するようになった頃には、さすがに止めてくれと彼に止められたが──。

「昔の私が好きだったことは、今の私が好きとは限りませんから」

 過去を引き合いに出されたつぐみは、清広と縮まりかけた心の距離が少しだけ遠くなったように感じた。

(やっぱり、信じるんじゃなかった)

 清広は頬を剥れさせて怒る彼女の姿すら愛おしいと感じているようで、彼は口元を緩めながらつぐみを抱きしめる力を強めた。

「スキンシップを激しくされたって、私の機嫌は直りませんからね!」
「ああ。わかっている」
「だったら……」
「怒っているつぐみがかわいすぎて、どうにかなりそうだ……」

 ──どうやらつぐみは、清広の新しい扉を開いてしまったようだ。
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