口下手な海上自衛官は、一度手放した元許嫁に海より深い愛を捧ぐ
(彼に抱く私の気持ちは、子どもの頃から変わらない……)

 自ら彼がほしいと手を伸ばす。
 それさえできれば、つぐみが清広と輝かしい未来を掴むのは簡単だった。

(その簡単なことが、できないから……。悩んでいるのに……)

 身を清め終えたつぐみはパジャマに着替えて身なりを整えると、タオルで水気を拭き取りながらドライヤーで髪を乾かす。

(逃げてばかりはいられない。ちゃんと、向き合わなきゃ……)

 覚悟を決めたつぐみは洗濯カゴに濡れたタオルを投げ捨てると、ドライヤーの電源を切りリビングへ移動した。

「お帰り」
「ただいま、戻りました……」

 つぐみがリビングへ戻ってきたのを確認した清広は、暇つぶしのためだろうか。

 スマートフォンを感情の籠もらない瞳で、ぼんやりと見つめていた。
 彼女が戻って来たことを確認してからそれをテーブルの上に置くと、顔を上げ──つぐみを手招きして、自身の膝を指差す。

 どうやら、そこに乗って欲しいようだ。

(ちゃんと、言わなきゃ……)

 緊張で震える唇をどうにか動かしたつぐみは、勢いよく言葉を吐き出した。
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