禍津神の刹那の恋 〜鬼に愛されながら、妖の身で人間へと恋をする〜

3.希望

「こんばんは」

 守人の部屋へ、壁をすり抜けて入る。
 物に対しては意識すればすり抜けられるし、普段は触れることもできる。

「紅羽! まさかこんなに早く会えるなんて」
「気配を辿っただけ、そして暇だっただけよ」

 彼の部屋を見回す。
 本棚には勉強関係の本ばかり……医学書も多いわね。

「受験勉強が嫌で、隠されたくなったの?」

 くすりと笑って、馬鹿にする。

「ああ、ガキっぽいだろう? この村には医者がいない。頭のいい俺は今から期待されて……この村の、坂を下った遠い先にある進学校へ行くように言われている。伯母の家に住み込んで通うことも既に決定しているんだ。俺の希望を聞かれたことは、一度もない」
「……そう。体調は? その霊感、負担は大きいはずよ」
「ああ、よく熱を出す。変なものもよく見るし、騙し騙しだよ」

 やっぱりそうなのね……。
 死因は過労死あたりにされて、若くして死にそうだ。実際は、人の身には重すぎる霊感のせいね。

「丁寧に話すのはやめたの?」
「紅羽が望むのなら。その方が会いに来てくれるかなと思って、あの時はそうしただけだよ。でも、せっかく来てくれたのなら仲よくなりたい」
「わざわざ妖となんて……友達はいないの? あの時の彼女は?」
「勉強の時間が削られるって親が追い払うんだ。誰とも遊べない。あの子は伯母の子だ。昔はこっちに住んでいて、お祭りの日だけ遊びに来る。いずれ伯母の家に世話になることが決まっているから、俺が祭に付き合うことを認められているだけだよ」
「……そう」

 なかなか厄介なご両親をお持ちのようね。

「ずっと、話し相手がほしかった」

 彼が私の両手をとる。

「紅羽……、あなたは俺の希望だ」
「……たまにしか来れないわ。特定の人間の側にいすぎると、私の影響で災いが降りかかるかもしれない」
「悪いことが起きても紅羽の影響だと思えるなら幸せだ。できる限り会いに来て。待っているから。そしていつか……、俺に最高の災いを」

 歪んでいるわね。
 人間らしく、歪んでいる。

 災いを起こさせないために私は祀られているのに……私の力を必要とされることに嬉しくなる。求められていることに、心が熱くなる。
 偽物の心臓が高鳴ってしまう。

 ――その力を使えたのなら、彼が望むのは神隠し……その身を消すことなのに。
< 5 / 12 >

この作品をシェア

pagetop