君が星を結ぶから
めのまえ。の光4
家を飛び出して桜舞公園に走って向かった。
中央広場に着くと、ベンチに座っている先輩の背中を見つけて、すぐに声をかける。
「流星先輩。こんなところでなにしてるんですか?学園祭の打ち上げに顔出さなかったし、家にも昨日から帰ってないって聞きましたよ」
全力で走ってきたので息が上がっている私とは反対に、「ははは、ごめんごめん。僕なら大丈夫だから。ちょっとひとりにさせて。心配ならいらないよ」と、目にくまを作ったひどく弱々しい声の先輩がそう答える。
昨日から、飲まず食わずでまともに寝てもいないのだろう。衰弱していることが見ればすぐにわかった。
私は自然と体が勝手に動いて、座っている先輩の腕をがっと引っ張ってこう言った。
「流星先輩。ちょっと、うち来てください」
「結、本当に大丈夫だから心配しないで」と先輩が少し抵抗したので、感情が昂った私は「大丈夫じゃないでしょ!なんで大丈夫じゃないのに、大丈夫って言うの!?」と、少し嗚咽の混ざった大きな声が出てしまった。
先輩は、私の顔を見て一瞬止まると、黙って家まで着いて来てくれた。
私は大丈夫じゃないのに、大丈夫と言ってしまう人の気持ちが少しわかる。先輩のことでひどく悩んでいたとき、クラスメイトたちに心配されたけど、私はずっと大丈夫と答えていた。本当はぜんぜん大丈夫じゃなくて毎晩泣いていたのに。
それでも、私が元気のないことに気づいた鞠子がこそっと相談に乗ってくれて、我慢ができず、私は悩み事を彼女だけには打ち明けることができたのだ。
クラスメイトから哀れな女だとか、最初から流星先輩と私なんかが釣り合ってないとか、陰口を言われたくなかったし、きっと、私なりのプライドがあったのだと思う。
そんなとき、いつでも味方でいてくれて、こんな不器用な私の悩みをちゃんと聞いてくれる、心から安心できる親友の存在が本当にありがたかった。たとえ、すぐに解決しないようなことでも聞いてもらえるだけで心が軽くなる。
私は、鞠子にそのことを教えてもらった。
先輩を自分の部屋に連れて行くと、コップの水を一杯飲ませたあと、私のベッドで仮眠をとるようお願いした。
「え、でも、昨日お風呂入ってないから汚いし、そもそも女の子のベッドになんて申し訳なくて寝れないよ」と、自分の心身がボロボロだというのに遠慮してしまう先輩に、「元気な先輩とちゃんと話したいから今は休んで!私は夕食用意してきます」と言い残し部屋を出た。
少ししてから部屋に戻ると、先輩はすやすやと眠っている。よほど疲れていたのだろう。
もう一度リビングに行くと、いきなり彼氏を部屋に連れ込んだと勘違いしているママから質問攻めにあった。
「結っ!あのかっこいい人は誰なの!?あんたが面食いなのは知ってたけど、親に一言もなしにいきなり家に連れて来るってどうなの?あれは彼氏なの?」
とりあえず、事情を説明すると、ママは少し落ち着いて「わかった。ママも協力するけど、お泊まりはなしだからね」と言ってくれた。
私は久しぶりにママの夕食の手伝いをした。一緒にひき肉をこねているときのママは少し嬉しそうだった。
ちょうど、ハンバーグが焼き上がったとき、リビングに先輩が降りて来て「すみません、急にお邪魔してしまってごめんなさい。そのうえ、気づいたら眠ってしまっていて挨拶が遅れてしまいました。犬塚流星と言います」と礼儀正しく頭を下げる。
「あらあら、礼儀正しい子ね。結のママです。ちょうど、夕食ができたとこなの食べてってね。流星君のぶんも結が作ったから」
ママが急にそう言ったので私は頬が熱くなる。流星先輩がこっちを見て「結、本当にありがとう」と頭を下げた。
三人でテーブルを囲む。先輩は礼儀正しく手を合わせいただきますをして、ハンバーグに箸を伸ばす。
「お口に合うといいんですけど、先輩みたいに料理慣れてないからっ」と、普段料理などしない私は予防線を張ってしまう。
でも、先輩はハンバーグを一口食べると、私の不安をかき消すような満面の笑顔で、「うわー、このハンバーグふわふわですっごく美味しいよ。作ってくれて嬉しい。本当にありがとう」と言ってくれた。
先輩の目から一粒の涙がこぼれる。
私とママが驚いた顔をすると、先輩が「あれ、なんかすみません。美味しくて。幸せすぎて。ははは、変だよね」と苦笑いをした。
「先輩は変じゃないです」と私がきっぱり言うと、「うん。ありがとう、結」とうなずいてから先輩は自分が抱えているものの話をしてくれた。
「僕は小学生のとき母を病気で亡くしていてね。だから、うちはこういった家族団欒であたたかい感じの夕食ってなくて。つい母さんがいたときの夕食を思い出しちゃったんだ。以前、僕が毎日夕食作ってるって話をしたとき結が親孝行だって褒めてくれたんだけど、本当は料理ぜんぜん作れない父さんの代わりにやらなきゃいけないだけで、親孝行とかじゃないんだ」
先輩のお母さんへの想いや、家庭環境のつらさが伝わってきた。だから先輩は、緑莉ちゃんがお母さんからもらった帽子を無くしたとき、あんなにも必死になって探していたのかと納得がいった。
「流星君。また、うちにご飯食べに来なさい。私が星尾家のお袋の味を振る舞うわ」
ママがそう言ってくれて、「ありがとうございます」と先輩は自分の指で涙を拭いてにっこり笑った。
中央広場に着くと、ベンチに座っている先輩の背中を見つけて、すぐに声をかける。
「流星先輩。こんなところでなにしてるんですか?学園祭の打ち上げに顔出さなかったし、家にも昨日から帰ってないって聞きましたよ」
全力で走ってきたので息が上がっている私とは反対に、「ははは、ごめんごめん。僕なら大丈夫だから。ちょっとひとりにさせて。心配ならいらないよ」と、目にくまを作ったひどく弱々しい声の先輩がそう答える。
昨日から、飲まず食わずでまともに寝てもいないのだろう。衰弱していることが見ればすぐにわかった。
私は自然と体が勝手に動いて、座っている先輩の腕をがっと引っ張ってこう言った。
「流星先輩。ちょっと、うち来てください」
「結、本当に大丈夫だから心配しないで」と先輩が少し抵抗したので、感情が昂った私は「大丈夫じゃないでしょ!なんで大丈夫じゃないのに、大丈夫って言うの!?」と、少し嗚咽の混ざった大きな声が出てしまった。
先輩は、私の顔を見て一瞬止まると、黙って家まで着いて来てくれた。
私は大丈夫じゃないのに、大丈夫と言ってしまう人の気持ちが少しわかる。先輩のことでひどく悩んでいたとき、クラスメイトたちに心配されたけど、私はずっと大丈夫と答えていた。本当はぜんぜん大丈夫じゃなくて毎晩泣いていたのに。
それでも、私が元気のないことに気づいた鞠子がこそっと相談に乗ってくれて、我慢ができず、私は悩み事を彼女だけには打ち明けることができたのだ。
クラスメイトから哀れな女だとか、最初から流星先輩と私なんかが釣り合ってないとか、陰口を言われたくなかったし、きっと、私なりのプライドがあったのだと思う。
そんなとき、いつでも味方でいてくれて、こんな不器用な私の悩みをちゃんと聞いてくれる、心から安心できる親友の存在が本当にありがたかった。たとえ、すぐに解決しないようなことでも聞いてもらえるだけで心が軽くなる。
私は、鞠子にそのことを教えてもらった。
先輩を自分の部屋に連れて行くと、コップの水を一杯飲ませたあと、私のベッドで仮眠をとるようお願いした。
「え、でも、昨日お風呂入ってないから汚いし、そもそも女の子のベッドになんて申し訳なくて寝れないよ」と、自分の心身がボロボロだというのに遠慮してしまう先輩に、「元気な先輩とちゃんと話したいから今は休んで!私は夕食用意してきます」と言い残し部屋を出た。
少ししてから部屋に戻ると、先輩はすやすやと眠っている。よほど疲れていたのだろう。
もう一度リビングに行くと、いきなり彼氏を部屋に連れ込んだと勘違いしているママから質問攻めにあった。
「結っ!あのかっこいい人は誰なの!?あんたが面食いなのは知ってたけど、親に一言もなしにいきなり家に連れて来るってどうなの?あれは彼氏なの?」
とりあえず、事情を説明すると、ママは少し落ち着いて「わかった。ママも協力するけど、お泊まりはなしだからね」と言ってくれた。
私は久しぶりにママの夕食の手伝いをした。一緒にひき肉をこねているときのママは少し嬉しそうだった。
ちょうど、ハンバーグが焼き上がったとき、リビングに先輩が降りて来て「すみません、急にお邪魔してしまってごめんなさい。そのうえ、気づいたら眠ってしまっていて挨拶が遅れてしまいました。犬塚流星と言います」と礼儀正しく頭を下げる。
「あらあら、礼儀正しい子ね。結のママです。ちょうど、夕食ができたとこなの食べてってね。流星君のぶんも結が作ったから」
ママが急にそう言ったので私は頬が熱くなる。流星先輩がこっちを見て「結、本当にありがとう」と頭を下げた。
三人でテーブルを囲む。先輩は礼儀正しく手を合わせいただきますをして、ハンバーグに箸を伸ばす。
「お口に合うといいんですけど、先輩みたいに料理慣れてないからっ」と、普段料理などしない私は予防線を張ってしまう。
でも、先輩はハンバーグを一口食べると、私の不安をかき消すような満面の笑顔で、「うわー、このハンバーグふわふわですっごく美味しいよ。作ってくれて嬉しい。本当にありがとう」と言ってくれた。
先輩の目から一粒の涙がこぼれる。
私とママが驚いた顔をすると、先輩が「あれ、なんかすみません。美味しくて。幸せすぎて。ははは、変だよね」と苦笑いをした。
「先輩は変じゃないです」と私がきっぱり言うと、「うん。ありがとう、結」とうなずいてから先輩は自分が抱えているものの話をしてくれた。
「僕は小学生のとき母を病気で亡くしていてね。だから、うちはこういった家族団欒であたたかい感じの夕食ってなくて。つい母さんがいたときの夕食を思い出しちゃったんだ。以前、僕が毎日夕食作ってるって話をしたとき結が親孝行だって褒めてくれたんだけど、本当は料理ぜんぜん作れない父さんの代わりにやらなきゃいけないだけで、親孝行とかじゃないんだ」
先輩のお母さんへの想いや、家庭環境のつらさが伝わってきた。だから先輩は、緑莉ちゃんがお母さんからもらった帽子を無くしたとき、あんなにも必死になって探していたのかと納得がいった。
「流星君。また、うちにご飯食べに来なさい。私が星尾家のお袋の味を振る舞うわ」
ママがそう言ってくれて、「ありがとうございます」と先輩は自分の指で涙を拭いてにっこり笑った。