君が星を結ぶから
ほしをむすぶ。君と

ほしをむすぶ。君と

 今日は入試試験が終わったあとの彼女と、これから桜舞公園で会う約束になっている。


 結の学力なら、きっと大丈夫。ちょっと早いけど、春から同じ高校にふたりで通学する幸せな妄想をしてしまう。


 実は、結が試験勉強に集中するために、もう一ヶ月も会っていない。


 毎日、勉強の邪魔にならない程度にDMや電話はしたけど、それじゃぜんぜん足りない。


 僕は結と会えない間、恋しくて何度も会いに行こうか迷ったけど、彼女の勉強の邪魔にならないように我慢した。


 本当は会ってすぐ抱きしめたい。でも、僕のほうが年上だし、結はいつでも余裕があってリードしてくれるような僕を好んでいる気がして、つい彼女の前では、かっこつけてちょっとお兄さんな自分を演じてしまう。


 本当は僕だって、結にたくさん好きと言葉で伝えて甘えたいときもある。


 思い返せば、僕は最初から結のことが好きで好きでたまらない。


 僕が桜舞公園でギターの練習をしてるとき、初めて彼女から声をかけられ、名前を聞いたときに運命だと思った。


 以前、母さんの法事に来ていた従兄弟のおばさんから、うちの鞠子が友達関係で失敗して一時期中学に通うのがつらい時期があったと聞いたことがある。


 おばさんの話を聞いていると、鞠子ちゃんがまちがえてしまったことに対し、嘘をついたと言いがかりをつけられ、クラスメイトたちから無視をされてしまったらしい。


 でも、クラスにたったひとり、鞠子ちゃんのことを信じて、自分も無視の対象になるかもしれないのに、声をかけてくれた子がいた。


 忘れっぽいおばさんは、その子の名前をぼんやりとしか覚えていなくて『星を結ぶような素敵な名前の子だった』と言っていた。


 『星尾結』


 僕は、結からその名前を聞いたとき、すぐにぴんと来て、きっと、この子が鞠子ちゃんに声をかけてくれた子だ、いったいどんな子なのだろう、自分もクラスメイトから無視をされるかもしれないのに、なんで鞠子ちゃんに声をかけたのだろう。周りの人の顔色を見て空気を読み、すぐに合わせてしまうような僕とは正反対の彼女にどんどんと惹かれていった。


 そして今は結が、なぜ鞠子ちゃんに声をかけたのかがよくわかる。僕のときと同じだ。


 結はいつでも周りの人の噂に惑わされることなく、ちゃんとその人、そのものを見て判断をしているのだ。


 そして、その人の信じれるところを見つけたら、まっすぐそこは信じてあげる優しさがある。人に対してむやみに全否定はしない。結はそういう子なのだ。僕は彼女のそういうところが大好きだし尊敬している。


 そのとき、ベンチに座ってる僕の頭の上から声が振ってきた。


 「流星先輩、お久しぶりです。待たせちゃいましたか?」


 久しぶりに僕と会うから照れているのだろうか。顔を上げるとほんのり頬を桃色に染めた彼女が立っていた。


 本当に可愛くて愛おしい。僕は我慢ができなくて、すぐに立ち上がって彼女をぎゅっと抱きしめてしまう。


 幸い公園には誰もいなかったので、しばらくそのままふたりで抱き合い、彼女のぬくもりをたくさん感じることができた。


 はぁ。表情には出さずクールにしていようと思ったのに悔しい。


 「試験、お疲れ様」


 やっと落ち着いたので、手を解いて僕がそう言うと、「ありがとうございます」と、さっきよりも真っ赤な顔の彼女が小さくお礼を呟く。


 いちいち結が可愛いくて、ずっとこうしていられるけど、そんなことをしてたら貴重なデート時間がすぐに終わってしまう。


 今日はお互い夕食の時間までなので、とりあえず、ふたりでスタバに歩いて向かう。


 その途中、「あ、そうそう。なんか他人行儀だし、今度からため口にしようよ、僕のことも呼び捨てでいいよ」


 そう提案をすると「え、でも、恥ずかしいし、先輩なのに失礼かもって思ってしまいます」と、結がもじもじと少し困った顔で答えた。


 結がこういう反応をすることは想定内。だから、僕はさっき自分が我慢ができなくなってしまったお返しで、微笑みながら彼女を見つめて「結ってさ、気持ちが昂ったとき、ため口が出るよね。結のため口がすごく可愛かったんだもん」と言った。


 すると彼女は、ずるいと言わんばかりの目をしてこっちを睨んだけど、僕はにこにこ笑顔で返す。


 観念したのか結は、「ちょっとずつ、ため口にする努力をします。最初からは無理ですからね」と、ため息をついて呟いた。


 「なら、さっそく練習で僕の名前を呼んでよ」


 結が照れてしまうのはわかってるけど、期待たっぷりの笑顔であえてお願いした。


 しかし、僕はすぐに倍返しされてしまう。


 「りゅうせい…くん」


 名前を呼ばれたのも嬉しいけど、がんばって呼び捨てにして、くんと付けてしまうところも、照れてる彼女の顔も仕草もすべてが可愛くて尊いのだ。こういう結を独り占めできるのだから、僕は本当に幸せ者だ。


 もともと軽音部の宣伝のためで、僕がやりたいことじゃなかったSNSのアカウント『種高の流星』はすっぱりと消した。


 軽音部のバンドメンバーやクラスの仲の良い友達からは、そんな何十万人もフォロワーがいるのにもったいないと言われたけど、実は今、種千高校を受験していて今度入学する彼女を優先したいんだと、本音を伝えたらみんな驚いてこう言った。


 「やっと、流星の本音が聞けた気がした」


 そして、「彼女を守るためにがんばれよ」「俺たちもできることあったら協力する」と言って応援してくれた。


 SNSの炎上以降、学校で悪い噂が立ってしまった僕は正直友達のことも、どうせ噂通りのやつだと僕を心の中では思っているのだろうと疑っていた。


 相手に合わせて変に演じてしまい、なかなか自我の出せない僕だけど、結というとくべつ大切な彼女ができてからは、結を優先させるためにみんなの中で自我を出すことで、たしかにこれから摩擦もあるかもしれないけど、友人たちの本音を知ることができたのだ。


 そして今、僕の周りにいる友人たちは信頼できるすごく良いやつばかりで、僕は前より楽しい高校生活が送れている。


 人を信じるということは、信じてもらった相手だけじゃなく、信じた自分も幸せに向かっていく力を持つ。


 世の中には、悪い人もいるからすぐに知らない人は信じちゃだめだし、SNSでは姿の見えない第三者の心ない言葉が飛び交う、そんな世の中だけど、人を信じることの大切さを忘れちゃいけない。


 人を信じる力で、僕と父さんを、僕と友達を、そして、僕と君を、夜空の星ように結んでくれた結をどうやって喜ばせようか。


 僕は今、そのことで頭がいっぱいだ。


 僕が結の手を取ると、彼女は少し照れながら嬉しそうに微笑む。


 桜舞公園の、もうすぐ花開くであろう、蕾を豊富につけた桜並木を、僕と結はふたりで寄り添って歩く。


 ⭐︎君が星を結ぶから(完)⭐︎
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