あばかれ、奪われる〜セフレから始まる歪愛〜
プロローグ
ほの薄暗い部屋の中、水音が鳴り響く。
艶めかしいその音は肌を寄せ合う男女の唇が激しく重なり合う度に両者の鼓膜を揺らす。
女の上半身の衣類は既に床へと落ちており、男はゆっくりとその豊満な双丘へと手を当てた。
その時、傍らに置いていた電子機器がピロンと音を鳴らす。
男は女の生肌に触れていた手を惜しげもなく離し、長方形型の硬いそれに手を伸ばす。光る画面に表示された内容に、おもむろに口角を上げた。
「漣ってばぁ、早く続きしようよ」
女は甘ったるい声を放ち、男に擦り寄った。
しかし男は先ほどとは打って変わり、自身に擦り寄る女を引き剥がして拒絶した。
「悪いけど、やっぱ帰ってくれる?」
男のとびきり甘い声で紡がれた残酷な言葉は、容赦なく女を射抜く。
当然女は戸惑い、男に縋りついた。
けれど男は微動だにせず、笑顔のまま告げた。
「これから本命の子が来るんだ。だから、帰って」
次の瞬間、何かを打ち付ける甲高い音が部屋に響き渡った。
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