あばかれ、奪われる〜セフレから始まる歪愛〜
「白雪1人で来た時はあそこで声かけてね。君の名前は伝えておくから」
「…いや、次なんて…」
「ん?」
圧のある微笑みにぐっと喉が鳴る。きっと両手が塞がっていなければ録音データの入った媒体を見せつけて来た事だろう。
漣は勝手に開いたエレベーターへ乗り込み、そのまま動かない。待って、何かがおかしい。
「ボタン…無くない?」
「ああ、うん。全部コンシェルジュが操作してるから」
「……」
声が出なかった。いやほんとに。やっぱりあの女性はコンシェルジュだったんだ、とか、こんな人件費の無駄がすぎるセキュリティとか、一体この人は何者なんだ、とか。頭の中では色んな言葉が渦巻くのに何ひとつだって口をついては出てくれない。
階層を知らせる電光掲示板が5を示した時、ドアが開く。そこには本来あるはずのものがなかった。
廊下が無い。
ただ広い空間だけがそこにあって、 ドアがその先にひとつあるだけ。
頭の上にハテナマークをいくつも浮かべていると、キャリーをその場に置いて漣は悠々と歩いていきそのドアを開いた。
にこにこと中へ促す漣に続いて入れば、モデルルームのような空間が広がっていた。
どうしていいか分からず硬直する私に、漣は座りなよと声をかけた。