あなたでよかった


ガシャン――

厨房と呼んで良い程広いキッチンに皿の割れる音が響く。

丁度出来上がった神蔵家の朝食を運ぼうとした時、先輩家政婦の深川が後ろからぶつかって来て、その拍子にその朝食が盛り付けられている皿の一つを落としてしまったのだ。

「ちょっと、月柴さん!何してんのよ!」
「申し訳ありません、、、!」

そう言って、慌てて割れた皿の破片を拾う家政婦の中では一番年下の月柴紗雪。

すると、皿の破片を拾う紗雪の手を深川が上から踏みつける。

皿の破片が手に刺さり、手のひらに痛みが伴い、紗雪は小さく「痛っ、、、」と溢した。

「あんたは本当に何をやらせてもダメね。」

そう言って紗雪を見下す深川。

そうすると、「何をしてるんですか?」とキッチンの入口から声が聞こえた。

その声に慌てて、紗雪の手から足を避ける深川。

低く優しいその声の主は、神蔵家の次男、神蔵灯也だった。

「と、灯也様!申し訳ございません、この子が朝食を落としてしまったもので!またすぐに新しく作り直しますので!」

深川が焦りながら言い訳をしていると、灯也はゆっくりと紗雪に歩み寄りしゃがみ込むと、紗雪の手を見て「手当が必要だね。」と言った。

「そのくらいなら、問題ありません!灯也様は、何もご心配なさらずに。」

深川がそう言うと、灯也は「俺の分の朝食はいらないから、父さんと兄さんだけに出してやってくれ。」と言い、それから灯也は紗雪の手を取り、肩を支えながら立たせると「痛かっただろ?こっちに来なさい。」と言い、紗雪をキッチンから連れ出した。

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