それでは恋をはじめましょう
「……ごめん、本当はサッカーじゃなくて俺のこと好きになってもらいたいだけ」
「じゃあもう……好きです……」
「……え、どこが?」

 ポカンとする涼風先輩はあまり自分の魅力をわかっていないらしい。
 社内での立ち振る舞いも、仕事での同僚へのサポートも、いつだって優しさと思いやりでいっぱいだ。
 整った容姿を際立たせるのは内面の美しさである。
 私が彼にこうしてコーヒーを奢ってもらうのももう何度目だろうか。
 落ち込んだときも、何か困っているときも、彼は笑顔で私を気にかけてくれる。
 そんな涼風先輩を慕うただの後輩ポジションだと思っていたのに、恋愛対象に認定された私のほうこそ『どこが?』と彼の心を射止めた私のポイントを問いたい。

「……コーヒー奢ってくれるところとか?」
「じゃあ一生奢る」

 ずっとそばにいるとでも言うように『一生』という言葉を彼の優しい声色が奏でた。
 憧れが過ぎるあまり涼風先輩の好きなところを挙げるにも『全部!』とでも言ってしまいそうなところをよく耐えたと思う。
 
 全部が好きと言いたくてもまだ知らないことはたくさんあって、それは彼も同じだ。
 それでもお互いのことをもっと知りたくて、もっと好きになりたくて、私たちはそのための一歩を踏み出すために初めてデートの約束を交わす。

「楽しみすぎて仕事が手につかないかも」

 そう言って笑った涼風先輩は、オフィスではいつも以上に機嫌よく仕事が出来る人だったのに対し、意識しすぎた私のほうこそ仕事が手につかずポンコツ以外の何者でもなかった。
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