この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
「えへへ、ちょっと奮発してみました。私も速水さんみたいなできる女になりたいなと思って。正社員という目標に向けて、願掛けのつもりです」

 彼女は胸の前で両のこぶしをグッと握った。優秀な派遣社員が正社員に登用されることはアスティー製薬でも増えている事例で、彼女もそれを目標にがんばっているようだ。

「彩芽ちゃんの仕事ぶりなら、きっと大丈夫よ」

 それは嘘偽りのない本音だった。彼女の堅実な仕事にはいつも助けられているから。

「あっ、でも速水さんは私みたいにアクセサリーを自分で買ったりしないか」

 彩芽は少し恥ずかしそうにクスリとした。

「きっと素敵な恋人からのプレゼントですよね」

 そうに違いないと信じきっている彩芽のキラキラした眼差しに、環は「うっ」とたじろぐ。

「いやいや、自分で買うこともあるよ~。普通にね!」

 答える環の声は上滑りしている。所持しているアクセサリーはすべて自分で買ったものなのに、浅はかな見栄を張ってしまう自分が情けない。

(でも言えないよ。私の真実の姿はとても打ち明けられない)

 仕事のできるオシャレな先輩で通っているのに恋人がいないどころか……実は〝処女〟だなんて。

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