この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
 色恋に疎い環でも勘づくものがあった。が、経験値ゼロの環の勘ほど当てにならないものもないだろう。

 社内のエースである武人にアイドル的な憧れを抱いている女子社員は多いし、彩芽もそのうちのひとりというだけかもしれない。

 どちらにしても余計なお節介はすべきじゃない、そう確信して環は緑邦大病院に行くためにオフィスを出た。
 
 国立緑邦大学付属病院。

 閑静な住宅地として人気の東京都三鷹市に位置しており、この地域の医療の中核を担っている。

 入院患者の憩いの場である広い中庭には桃の花がちらほらと咲きはじめていた。桜より濃いピンク色が目にも鮮やかだ。

 環は足早にガラス張りの自動ドアを通り、院内へと入る。

(患者さん、いっぱいだな)

 緑邦大病院の総合受付前はなにか特別なことでもあったのかと思うほど混雑しているが、大学病院というところはこの状態が常だ。

 複雑な症例、難しい手術を必要とする患者はみなここに集まるので当然といえば当然かもしれない。現実問題として、大学病院の手術は何か月も先まで予約ができないなんて事態もザラにある。
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