この恋、温め直しますか？ ～鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い～

　環は受付を通り過ぎ、突き当たりを右に曲がる。こちらに、今日の目的地である脳神経外科の医局があるからだ。

（さて、新しい担当ドクターはどんな人かな？）

　来月までの残り二週間は引継ぎ期間として、前任エリアと新規エリアへのあいさつを速やかに済ませなくてはならない。

　まずは、新薬の普及を考えても一番大切な仕事先となるこの緑邦大病院からだ。

　前任者からドクターの名前一覧リストは受け取っているけれど、直接会って顔を覚えるほうがいいと考えて教授と医局長の名前を確認した程度だ。

　担当ドクターの人柄次第で環の仕事の難易度は大きく変わる。とくに今回の新薬には社の命運が懸かっているといっても過言ではない。

　受験の結果発表に向かうような気持ちで、環は歩き出す。

　白い壁紙にリノリウムのグレーの床。国立の病院らしい殺風景な廊下を進んでいると、向かいからナースがふたりやってきた。すれ違いざまに会話が漏れ聞こえてくる。

「例の手術、成功したらしいですね」
「そうそう。要先生、手術に関してはやっぱり天才よ」

　環から見て手前側、おそらく先輩なのだろうと思われるほうのナースが発した名前に心臓がドキリとした。