この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
 女性という存在は高史郎にとって無彩色の背景も同然だった。

 けれど、たったひとり。環だけは違った。

 その差はドット絵のレトロゲームと最先端の3D映画くらいある。

 彼女の姿は細部まで色鮮やかで立体的で、声も匂いも……高史郎の五感すべてを刺激した。

(ずっとどうして環だけが特別なんだろう?と不思議に思ってた。でも……)

 そんなに難しい話じゃなかった。

 自分はただ彼女に恋焦がれていただけなのだ。

 映画館で手が触れ合ったあの日からずっとずっと――。

 そしてその恋心は今夜、愛に昇華した。

 環の瞳が好奇心いっぱいにキョロキョロと動く。

「この部屋、ものすごく要先生らしいですね」


 仕事用のデスクと医学書の詰まった本棚、ベッド、少ない私服をしまうための小さなクローゼット。

 高史郎の部屋にあるものはそれだけ。装飾品の類はいっさい置いていない。

 たしかにおもしろみのない自分らしい部屋かもしれない。

 ふと思いついて高史郎は環に尋ねる。

「今さらだが、こういうときはちょっといいホテルなんかに連れていくべきだったか? 間違っていたのだとしたら申し訳なった」
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