この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
「緑邦大病院の准教授ともあろう方が嘘をつくとは思えませんし、うちがそれを疑うなんてとんでもないことです。瀬田准教授の話が真実に決まっていますよ」

 議論はこれでおしまいとでも言いたげに武人が畳みかける。

 実際、部長も彼の主張に否とは言いづらそうな表情をしている。

(瀬田准教授を悪者にはしたくないものね)

 製薬会社と病院の関係は売り手と買い手。どうしたってこちらの立場が弱い。

 加えて瀬田は地域の中核である大病院の准教授。彼の機嫌を損ねて得することなどアスティー製薬にはなにひとつないのだ。

 部長はコホンと咳払いをひとつして、話をまとめに入った。

「幸い、瀬田准教授も大事にはしないと言ってくれている。病院には報告せず内々でおさめてくれるということだから、速水さんも今回は厳重注意といったところで……」

 病院側に報告しないのは瀬田自身にもやましいことがあるなによりの証拠じゃないか。

 そうは思うものの、今回の件にかぎれば彼も騙された被害者側だ。

 さっさと事態を収束させたいと願う気持ちは理解できる。

 環さえ泣き寝入りすれば、緑邦大病院もアスティー製薬もほぼ無傷で事が済むのだ。
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