この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
「彼女の言い逃れに耳を傾ける必要はないですよ。速水さんのことはよきライバルだと思っていたのに……往生際の悪いところは見たくなかったな」

 この部屋に来てから初めて、彼が環と目を合わせた。

 その瞳は嗜虐的な悦びでギラギラと輝いている。よきライバルではなく心底憎らしい仇敵をようやく仕留められる、そんな顔つきだった。

 彼が自分を見つめていたのはほんの数秒、武人はすぐに部長に向き直る。

「それに当事者である瀬田准教授の証言もあるじゃないですか」

 環は弾かれたように顔をあげ部長に尋ねた。

「准教授にも話を聞かれたんですか? 彼はなんて?」

 彼が真実を話してくれたら、少なくとも環がそういうつもりであのホテルにいたわけじゃないことは証明されるはず。

 しかし、そのわずかな希望はすぐに断ち切られた。

『彼女に強引に誘われた。自分はルール違反はやめるべきだと教育してあげただけだ』

 瀬田はそう証言していると部長が言ったからだ。

(どんな顔してそんな証言したのよ?)

 瀬田への怒りがふつふつと湧くが、そもそも彼に期待した自分が馬鹿だった。

 すっかり追いつめられている自身の状況に背筋が冷たくなる。
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